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葬儀中に突然「このまま死ぬ」…住職を襲ったパニック発作、「精神科に通うのは敗北だと思っていた」15年間の苦闘

葬儀中に突然「このまま死ぬ」…住職を襲ったパニック発作、「精神科に通うのは敗北だと思っていた」15年間の苦闘

突然の動悸や息苦しさ、「このまま死んでしまうのではないか」という強い恐怖に襲われる「パニック発作」。こうした発作を繰り返す「パニック障害」は、海外の疫学調査では成人の数%程度が経験するとされる精神疾患のひとつだ。「また発作が起こるのではないか」という「予期不安」が特徴で、仕事や日常生活に大きな影響が出るケースも少なくない。
 

愛知県名古屋市にある真宗大谷派の正蓮寺で住職を務める大矢貴洋氏も、パニック障害と向き合ってきたひとりだ。病を抱えながら、どのように日々を歩んできたのか。大矢住職に話を聞いた。

葬儀中に突然襲った恐怖…「『私は病気なんだ』という事実を受け入れられなかった」

大矢住職が初めてパニック発作を経験したのは「葬儀の最中」だった。

「今から15年ほど前のことです。お葬式で読経を始めようとしたその瞬間、突然心臓が爆発しそうなほど激しく波打ち、全身の血の気が引き、息がうまく吸えなくなりました。

自分に何が起きているのか全く理解できず、『気を失って倒れてしまうのではないか』『このまま死んでしまうのではないか』と思うほどの圧倒的な恐怖に支配されたのです」

お葬式という「絶対に逃げ出してはならない場所」で襲ってきた突然の発作。「もし今ここで倒れたら」「途中で逃げ出したらお葬式を台無しにしてしまう」という恐怖の悪循環に陥り、必死で衣の袖を握りしめ、冷や汗を流しながら何とかその場を耐え忍んだ。

なんとか無事に終えて控室に戻ると、激しい落胆と自己嫌悪が襲ってきた。

「『僧侶でありながら、お葬式すらまともにできないのか』と、自分を責める声が頭の中で鳴り響いて止まらなくなりました」

しかし、それだけでは終わらなかった。一度限界の恐怖を味わうと、脳が「お葬式=恐怖の場所」と結びつけてしまい、次の予定が入った瞬間から動悸が始まるようになり、「予期不安」と「広場恐怖」の負のループに陥った。これ以上は耐えられないと感じ、すぐに医療機関に駆け込んだ。

 「初診の時は、先生が私の家族構成や仕事、趣味などを丁寧にじっくりと聞き取ってくださり、私の心をそのまま受け止める『聞き役』に徹してくださいました。

『あなたはこの病気です』と頭ごなしに断定されることもなく、『まずは薬を試して、ゆっくり治していきましょう』と、優しく言葉をかけていただきました」

当時、「早くこの不安を消し去って、元に戻らなければ」と焦っていた大矢住職だが、患者の気持ちを尊重し、背中を支えてくれるような医師の診療方針に救われたという。

それでも、自身の病を受け入れることは容易ではなかった。

「当時は副住職でしたが、『副住職が精神科に通っていると知られたらお寺の信用を失うのではないか』という不安と、『僧侶たるもの、常に平穏な心でいなければならない』という強い理想に縛られていた私にとって、クリニックに通うことは自分の『敗北』や『失格』を意味するように思えました。

処方された薬を飲むときも罪悪感があり、『私は病気なんだ』という事実をどうしても受け入れられませんでした」

「僧侶なのに自分の心すらコントロールできないなんて」

現実を認めたくないという気持ちを抱えながらも、家族には病気のことを打ち明けた。

「家族は心配し、支えようとしてくれましたが、やはり目に見えない病なので、私の抱える本当の恐怖までは簡単には理解してもらいにくい感覚がありました。

パニック障害という病気は、実際にその苦しみを経験した人でなければ、本当の辛さは伝わりにくいものなのかもしれません」

一方で、門徒には病気のことを伝えなかった。「お寺の信用を失ってしまうのではないか」という不安から、心配をかけまいと、病のことを隠すようにして必死に日々の勤めをこなした。

こうした「自分を律しようとする強い思い」の背景には、大矢住職が生まれ育った環境も影響しているという。

「私は3人きょうだいの末っ子で、上に姉が2人いる一人息子として生まれました。そのため幼少期から、周囲のご門徒さんや地域の方々に『将来はお坊さんね』『お寺の跡取りだから立派にね』と声をかけられ、期待されて育ちました。自分でも早くから『お寺の息子』という強い自覚を持って生きてきました」

この自覚は、自身が進むべき道を歩むための大きな支えとなった一方で、無意識のうちに「周りの期待に応えなければならない」「ちゃんとしなきゃいけない」という強い思い込みを自分に課すことにもつながった。

「この思い込みが自分を縛り、目に見えないプレッシャーとなっていたのだと思います。『立派な僧侶でいなければ』という強い理想が、病気になった自分を激しく責め立てる巨大な刃へと変わってしまいました」

「人々の苦しみに寄り添い、仏法を説く立場の自分が、自分の心すらコントロールできないなんて」――パニック障害になった大矢住職は、“あるべき自分”と“現実の自分”の間で苦しみ、自分を否定し続けた。

「後になって気づいたのですが、そういった苦しみこそが仏法のいう『自力のはからい』だったのです。浄土真宗では、自分の力だけで清らかな善人になろうとしたり、悟りを開こうとしたりする心を『自力のはからい(人間の傲慢さ)』と呼びます。

人間は本来、弱い存在であり、自分の心や体であっても、すべてを思い通りにコントロールすることなどできないからです」

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