読んだよ、と答えた元恋人
貸したのは付き合って間もない頃で、私が一番好きな小説でした。最後まで読んでほしいと、あのとき何度も頼んだ一冊です。だからカップを片づける前に、私は聞いてみました。「最後まで読んだ?」彼は短くうなずいて答えました。「最後まで読んだよ」言い終えると、彼はコーヒーに口をつけないまま先に席を立っていきました。引き止める理由も、もう見つかりませんでした。
しおりがわりの、一枚の半券
受け取った本を開いたのは、片づけをしていたときでした。中ほどのページに、薄い紙が一枚はさまっていました。最後に二人で行った展覧会の半券です。会場の名前も、入った順路の案内も、あの日のまま残っていました。彼はこれを、しおりがわりに使っていたのだとわかりました。一番好きな小説の途中に、二人の最後の一日が挟まっていたのです。
