・眼科だけはどうしても甘えてしまう
なのに本当に不思議なのだが、眼科でだけ私は少しおかしくなる。
入口を入って受付を探していると、遠くから声が飛んでくる。
「受付をお願いします」「受付はこちらです」
方向はなんとなく分かる。でも途中の状況は分からない。
椅子ある? 人いる? 柱は? ぶつからない?
私はかなり緊張しながら歩いている。
そして心の中の悪い自分が出てくる。
(……眼科ですよね)と
本当にすみません。
検査室へ向かうときも同じだ。
「そちらの検査室へどうぞ」
普段ならすぐ聞く。
「右ですか? 左ですか?」
でもなぜか一回飲み込む。
ぐっと我慢して、ちょっとしてからやっぱり聞く。
「右ですか? 左ですか?」
病院の中は静かだ。人もあまり動いていない。
だから白杖が何にも当たらないと、逆に怖い。
情報が、ない。
頭の中だけが忙しい……。
視界はいつも通り暇なのに……。
分かっている。患者さんのほとんどは見えている。
私はレアキャラだ。
忙しいのも分かる。頭では全部理解している。
それでも心のどこかで、小さい私が言う。
「せめて眼科だけは……!」と。
完全にワガママだ。
そして診察が終わり、外に出る。
今度は家まで帰ることに集中する。
車、段差、信号、別のゲームが始まる。
だから、さっきまでのモヤっとはもう忘れている。その繰り返しだ。
そして私は、またどこかで「そちらです」と言われる。
執筆:緑(RYOKU)
イラスト:Gemini
