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斎藤幸平が警告…ホルムズ海峡の緊張緩和でも消えない「ナフサ不足」、危機が暴いた市場経済の限界…「必要なのは民主的な計画経済だ」

斎藤幸平が警告…ホルムズ海峡の緊張緩和でも消えない「ナフサ不足」、危機が暴いた市場経済の限界…「必要なのは民主的な計画経済だ」

市場に任せきりではなく「民主的な計画経済」を!

では、弱者を切り捨てないためにはどうすればいいのか。必要なのは、サプライチェーン全体を見える化し、情報を共有し、優先順位を設定し、過剰な自己防衛を抑え、需要そのものを民主的に調整する仕組みの構築である。それは市場経済信仰を捨てることを意味する。資源制約の時代こそ、私の新著『人新世の「黙示録」』(集英社シリーズ・コモン)で提起した「経済計画」の出番である。

もちろん、私の掲げる「経済計画」とは、旧ソ連型の中央集権的な集産型経済のことではない。むしろ、危機の時に社会的に必要な物資を、価格と購買力だけに任せず、必要性にもとづいて配分する仕組みである。医療、公共インフラ、生活必需部門、重要な製造工程へと優先的に供給する。流通段階の在庫を把握する。買いだめを抑制する。供給の見通しを共有し、企業が過剰な防衛行動を取らなくても済む環境を整える。このような措置をソ連型計画と区別して、「民主的計画」と呼ぼう。

もちろん、民主的計画はナフサそのものを作り出すことはできない。だが、どこにどれだけあり、どこに流れ、どこで止まり、どの需要が不可欠で、どの需要を後回しにできるのかを社会的に判断することを可能にする。民主的計画とは、不安を減らし、見通しをつくり、信頼を共有する制度である。

もう少し具体的にみていこう。まず、民主的計画のために必要なのは、どの物資を計画の対象にするかを決めることだ。民主的計画は、何が社会にとって重要なのかを決めるところから始まるのである。すべての商品を政府が細かく管理する必要はない。シンナーや溶剤のように、建設、製造、修繕、医療、インフラ維持などに不可欠で、代替が難しく、供給不安が波及しやすい物資を「重要物資」として指定することをイメージしてほしい。

第二に、メーカー、輸入業者、卸、販売店、大口需要者から、最低限の在庫・出荷・入荷予定データを収集する。現在庫量、通常時の月間出荷量、直近の受注量、入荷予定量、出荷制限の有無、地域別・業種別の不足状況といった情報である。ただし、企業秘密や価格交渉に関わる細部まで公開する必要はない。たとえば、「A社の倉庫に何リットルある」と個別情報を晒す必要はない。「関東圏の卸段階には通常需要の18日分、メーカー在庫は25日分、ただし小規模塗装業者向け流通が詰まっている」という形で出せばよい。これによって、本当に足りないのか、偏っているだけなのか、どこで流れが細っているのかが見えるようになる。重要なのは、社会的判断に必要な範囲で、集計された情報を共有することである。

第三に、データを集約し、利用可能にする公的なプラットフォームが必要となる。この開発・運用をGAFAMのような民間企業に任せるわけにはいかないが、政府だけで運営する必要もない。自治体、業界団体、協同組合、労働組合、中小企業団体、消費者団体、専門家が関与する形が望ましい。これこそが民主化の肝だからである。ポイントは、民間企業の自己申告をそのまま信じるのではなく、複数の主体がチェックできる仕組みにすることだ。このプラットフォームのもとで、どこからどこへ、どれだけ出ているのか、通常時に比べて出荷量は落ちているのか、受注量だけが膨らんでいるのか、特定の業種だけが過剰発注しているのかが可視化される。

第四に、需要側の動きも可視化する必要がある。同じシンナーでも、単なる在庫積み増しのための注文と、公共施設の補修、医療機器関連、住宅修繕、インフラ維持に必要な注文では、社会的な優先度が異なる。そこで、部門ごとに重要度をつけ、供給量が不足する場合には、重要度の高いものに優先的に配分する。また、需要がわかれば、政府による直販もしやすくなり、企業の便乗値上げも抑制することが可能になる。AIやマーケットデザインの発達は、そのような予測や調整をより容易にするだろう。

さらに、省資源化も計画の一部にしなければならない。包装の簡素化、規格の統一、再利用やリサイクルの促進、不要不急の生産の延期、代替素材への切り替え、ガソリン補助金の見直しなどを、個々の企業の努力や価格上昇に丸投げするのではなく、社会的な優先順位にもとづいて進めるのである。これは「我慢」を強いるだけの緊縮ではない。社会にとってエッセンシャルなものを守るために、過剰で不要なものを民主的に減らしていく共同作業である。

不安を生む自由市場vs. 信頼を育てる計画

市場では、在庫情報は企業の武器である。だが、そのことが情報の隠蔽につながり、合成の誤謬を生み、社会的不安を増幅してしまう。それに対して、民主的計画では、在庫情報は社会の共有財産、つまり〈コモン〉として扱われる。市場では、情報の非対称性が利益を生む。だが、民主的計画では、情報の共有が信頼と協力を育んでいくのだ。

当然、この過程では、国家が情報開示を義務化したり、価格統制を行ったり、買いだめを禁止したり、必要な部門に優先配分を行ったりする介入も求められる。ただし、それは国家が上から命令し、強制するということではない。国家の役割は、社会的な情報共有と合意形成を可能にする制度的条件を整え、強者による囲い込みを防ぎ、弱い現場に必要な資源が届くようにすることにある。

今後、気候変動がもたらす資源不足や米中の覇権争いの激化により、ホルムズ海峡閉鎖のような事態は世界各地で生じ、物資不足の影響は長期化・慢性化していく。言ってみれば、コロナ禍以降に止むことを知らない戦争やインフレは、慢性的欠乏経済の始まりなのである。

だからこそ、今回の危機の教訓を、単に「石油備蓄がたくさんあれば大丈夫だ」という話で終わらせてはならない。あるいは、「中東依存をやめ、輸入先を分散させよう」という話だけでも不十分である。激動の時代のエネルギー安全保障のためには、計画化に舵を切るのは今がラストチャンスである。


ナフサ危機から見えてくるのは、現代社会に必要なのは「市場か、国家か」という単純な二択ではなく、市場に任せれば任せるほど壊れていく領域については、計画化が求められるという課題である。それは、エネルギーだけでなく、食料、医療、物流、住宅、ケアといった様々な領域に関わる。これからの気候崩壊と戦争の時代に、人びとの生活と生産の基盤である<コモン>を、購買力と不安心理に委ねていてはならないのだ。

自由市場は、平時には効率を装う。だが危機になると、不安を増幅し、必要なものを必要な場所から奪い、社会全体を自己防衛の生存競争へと追い込んでしまう。だからこそ、戦時には、買える者が買い占める資本主義経済ではなく、必要な者に届くように調整する計画経済が必要になる。

それは必ずしも嘆くべき事態ではない。むしろ、「各人は能力に応じて、各人には必要に応じて」という民主的経済の理念を、恒久的欠乏経済の時代に実現する道になるのである。

文/斎藤幸平 写真/Shutterstock

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