会わせたくなくなったなら、そう言ってほしかった
それから数日、私は何度も予定表を開きました。ハートの絵文字は、そのままでした。たったひとつの絵文字なのに、見るたびに別の意味を持っているように見えました。誰かに見られたくないのかな。親に会わせるのが面倒になったのかな。私との将来を考えるのが重くなったのかな。自分でも考えすぎだとわかっていました。でも、もともと「親に挨拶!」と書いてあったものが、急にハートだけになったのです。理由を聞かないまま平気でいられるほど、私は強くありませんでした。
ある夜、私は彼にもう一度その予定のことを聞きました。「私のこと、親に会わせたくない?」。口にした瞬間、自分が思っていた以上に不安だったことに気づきました。責めるつもりはなかったのに、声は少し硬くなっていました。彼は驚いたように私を見て、それから慌てて首を横に振りました。
「違う。会わせたくなくなったわけじゃない」彼は少し言いにくそうにしながら、続けました。「『親に挨拶!』って書いてあると、見るたびに俺の方が身構えちゃって。それで、名前だけ変えたんだ」。思っていた答えとは、まったく違いました。彼が隠していたのは、私を避けたい気持ちではありませんでした。自分の緊張を、私に見せたくなかっただけでした。
そして...
迎えた当日、彼の実家に向かう電車の中で、彼はいつもより口数が少なくなっていました。何度もスマホを見たり、用もないのに腕時計を確認したりしていました。その様子を見て、私はようやく腑に落ちました。この人は、私を親に会わせるのが嫌だったのではなく、本当に緊張していただけなのだと。
ご両親への挨拶は、思っていたよりもずっと和やかに進みました。お母さんは何度もお茶をすすめてくれて、お父さんは彼の子どものころの話を少し照れながらしてくれました。
帰り道、彼は大きく息を吐いてから「緊張しすぎてたかも」と笑いました。ハートの絵文字に変わった予定を見たとき、私は勝手に終わりの合図みたいに受け取っていました。でも本当は、彼なりの小さな逃げ道だったのかもしれません。次からは、緊張を隠す前にちゃんと話す。そう言った彼を、私はもう少しだけ信じてみようと思いました。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
