トップ交代も自浄作用は働かず…
2015年にFIFAの巨額汚職が米国司法当局によって摘発された。
一説にはアメリカが2018年のW杯開催権をロシアに取られたことの意趣返しとも言われるが、捜査の結果、FIFAの幹部たちは、大手広告代理店などから国際大会の放映権やスポンサー権などを獲得する見返りとして、巨額の賄賂を約24年間に渡って受け取っていたことが判明した。
またロシア大会、カタール大会などの開催についても投票権を持つ、各国のサッカー協会会長、FIFA副会長たちが億単位の賄賂で買収されていたことが露見する。大きな腐敗が暴かれたことで、ゼップ・ブラッター会長以下、幹部たちは退陣に追い込まれた。
そして新しく2016年に会長に就いたのが、弁護士であり、UEFAでミシェル・プラティニの下で事務局長をしていたインファンティノだった。インファンティーノは地に落ちたFIFAの信頼を回復させるため、プロサッカーのステークホルダーとのやりとりを専門に行う部署をあらたに設置した。
山崎「FIFAゲート事件が起きて、世界中からのパブリックプレッシャーがあった中、信頼回復のためにFIFAが打ち出した失地回復キャンペーンは素晴らしいものがありました。
まずプロサッカー部門という選手を含めたステークホルダーとの関係を重視するセクションを作り、更にはFIFA人権政策というのを採択して、『全世界のあらゆる人権問題をサッカーの枠組みで解決していく』ということを発信したんです。
こんなにも高尚で意欲的なアジェンダ(課題)が登場したことに私自身もすごくロマンを感じてFIFA の仲間といろんなプロジェクトをやりました。
ところが、今、こうして振り返ってみると、それは結局、確たる理念に基づくものというよりは、スキャンダルがあったあとの火消しという要素がかなり強かったように思います。
アジェンダ遂行は、しっかりと根付いた理念と結びついていれば強力なんですけど、要はスキャンダルで刺されたから、それが次は起きないように当面はステークホルダーと良い関係を保とうとしたに過ぎなかったともいえると思います。
そもそも、FIFAゲートが起きた原因は、トップに君臨する人たちが「票を買う」ことができるというガバナンスの構造にあったので、それを変えない限りは同じことが繰り返されることは予想されていたのに、結局、その構造は変わらなかった。
なので、FIFAゲートから時間が経って、また会長に権限が集中する構造の問題点が顕在化したのです。FIFAゲート直後も今も、会長がインファンティノであるということは変わっていないのに、今は、ステークホルダーとの関係は全く変わっています。つまり会長の独裁を牽制する仕組みがないのです」
結果的にインファンティ―ノの発言はポジショントークに過ぎなかった。FIFAゲート事件からほぼ10年が経った。何と言う皮肉か。先述したイギリスの人権団体フェアスクエアによってこのFIFA倫理委員会に「中立義務違反」で異議申し立てをされたのが、当の設立者インファンティノであった。
金のためにW杯を2度開催にしようと画策
山崎「2016年の動きは、疑獄事件の後に大きな危機感を感じていたからそうなったわけですが、結局、FIFAの決定に関与する権利については、その後も選手やリーグに与えられることなく、本質的な改革が行われずに徐々に薄れて行きました。
今、FIFAはガナバンス改革において世界の選手会であるFIFPROや欧州リーグから、歴史上最大の複数訴訟を受けています。FIFAは一見、民主的に運営されているように見えて決してそうではないのです」
ここで山崎は問題は構造的に2つあると指摘した。
山崎「それは、一つのスポーツに一つの競技団体ということで、他の大会が主催されずに独占に陥るということ。もう一つは限られたステークホルダーにしか、決定に関与する機会が設けられていないということ。
FIFAはいわゆる制限民主制なのです。競技人口もビジネスで動くお金もこれだけ大きな規模になっているのに議決権を持っているのは、いまだに各国のサッカー協会だけで、選手や各国リーグの意見が届かないのです」
2021年には、4年周期で行われていたW杯を2年に一度に開催するという提案がFIFAから提出された。2年開催という周期ならばFIFAの収入は劇的に増える。
しかし、年間70試合以上のゲームに出続けている選手のコンディションを考えれば、たまったものではない。W杯予選が加われば、超過密日程になることは自明であり、また大会の価値も低下する。
当然ながら、各国リーグもFIFPROも反発して実現には至らなかった。しかし、荒唐無稽に見えるこのような案がいきなり出てくることからもFIFAのトップダウンが見て取れる。
山崎「実際に選手に年俸を払っている各クラブや当事者である選手たちの声を聞かずに、FIFAが独断専行で決めて行こうという姿勢にまず大きな問題があります」
――FIFAにおいては、サッカー選手は労働者であるという観点が抜けていますね。
山崎「そうです。選手に給料を払う立場にないFIFAが自分たちの営利活動のために新しい大会を定めてコストも払わずに選手を招集していく。これは明確な利益相反です。
それでも現在のFIFAのガバナンスでは、FIFPROや各国のリーグに相談せずとも全世界211のサッカー協会の賛同さえ取れれば実施できてしまうんです。そこで、FIFPROと世界リーグ団体=WLA(World Leagues Association)が動きました」
WLAは2016年に設立された国際団体で、プレミア(イングランド)、セリアA(イタリア)、ブンデス(ドイツ)、ラ・リーガ(スペイン)、そしてJリーグ(日本)など世界中の48のリーグが加盟している。
目的はリーグ同士を繋げてサッカー界のガバナンス構造の改善を図り、選手の円滑な労使関係を支援することである。そのWLAとFIFPROが協調したという。
山崎「FIFPROとWLAは、選手の労働に関することは、労使交渉で決められるべきだとして、ILOの関与の下で労使協定を締結しました。これにFIFAも加えての三者合意にしたかったのですが、FIFAは参加を拒否しました」

