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トランプ介入疑惑で揺れるW杯…FIFA会長の“独裁”を止められないサッカー界の病巣

トランプ介入疑惑で揺れるW杯…FIFA会長の“独裁”を止められないサッカー界の病巣

対価なく「国のために戦え」はやりがい搾取

ILO=国際労働機関は1919年に設立された世界の労働者の労働条件の改善を目指す国連の専門機関である。このILOが2020年に「スポーツ界におけるディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)対話フォーラム」を催し、会議の席上で全世界のプロスポーツ選手は労働者であるとの合意形成を成し遂げた。

そして2022年9月にスイス・ジュネーブのILO本部においてグローバル労働協約が結ばれたのである。これで選手の労働組合としての団体交渉権が世界的な規模で認められたが、FIFAはこの労使協約には加わらなかった。

山崎「ILO が全世界のスポーツ選手は労働者であるという定義をしたのは、すごく画期的でそれがスタートラインでした。密なスケジュールの中で国際大会に出れば、ケガのリスクも大きい。

しかし、FIFAは選手の労働によって資産を増やしているにも関わらず、選手に給料を払っている人たちや実際に働いている選手に意見を聞こうとしていない。その構造に慣れてしまっていたからかもしれませんが、おかしなことです。

W杯はFIFAが主催している大会であり、選手の労働を使ってお金を稼いでいるわけですから、その大会については雇い主、つまり使用者の立場になります。それは、ILOの条約の解釈からしても明らかです。しかし、IOC (国際オリンピック委員会)やFIFAは我々はあくまでもレギュレーター(規制者、管理者、運営者)であって使用者ではない、と主張し続けています。明らかに選手の労働を使ってお金を稼いでいる立場にもかかわらず、です。

FIFAは昨年に、リーグやFIFPROとの協議交渉もなく、大規模なクラブワールドカップを行いました。これはいわば労働者と交渉せずに、お前の夏休みは今年からない、働け、と言ってるようなものですし、ましてやそれを選手に給料を払っているクラブをまとめるリーグとの交渉もなく行ったわけです。だからリーグとFIFPROはこれはおかしいだろうということでFIFAを訴えているわけです。

――特にW杯などは、国を背負って戦うのだから、報酬は二の次だと言うカルチャーが根付いていましたね。

山崎「特にヨーロッパにそれは顕著にありましたね。逆にアメリカなどは、例えば野球のメジャーリーグの選手がアメリカ野球連盟に一方的に招集されて国際試合に出なきゃいけないなんていうことは当然ないわけで、クラブや選手の承諾なく、勝手に招集するなんてことはできない仕組みになっています。それはバスケやアイスホッケーも同じで、そう考えると、いかにサッカーが特殊かがよく分かります。

かつては、どの競技もアマチュアスポーツだったわけですが、時代は変わり、プロスポーツの選手を呼んで大きなお金が動くようになった。プロアスリートを使えばそれは労働を伴うことで、そこの部分に配慮したまま修正が必要となるのは当然の流れです」

プロへの対価を認めずにただ「国のために戦え」というのは、明らかなやりがい搾取である。労使協議、労使合意がない中でFIFAがAマッチデーなど、試合カレンダーも含めてサッカー界の全てを決めていくというのは、明らかに不合理である。

この独占にFIFAの構造的な病巣が見て取れる。W杯出場国は肥大し続け、ついに48ヶ国になった。

――そこで昨年行われたインファンティ―のによるトランプへの平和賞授与ですが、これはFIFA内部ではどのように見られているのでしょう。トランプが親イスラエル政府であることは、知られていますが、FIFAにはムスリムのボードメンバーも多々いるわけですし、トランプに高圧的に恫喝されているイランのみならず中東諸国のNF(国内競技連盟)にすれば、度し難い暴挙です。

米国は1月4日に主権国家であるベネズエラに対して侵略戦争まで始めて死者まで出している。さらにトランプはグリーンランド問題で、米国の領有権獲得に反対するヨーロッパ8カ国に関税をかけて、武力行使の奪取もほのめかしている。平和とは対極にいる人物なのに、FIFAは言及もしないし、平和賞について取り下げもしない。

山崎「トップが暴走し始めてしまって誰も止めようがないという状況です。もうステークホルダーとの関係が台無しになるようなことが、次々と会長によって行われているわけですから。私も知っているFIFAの人々はインファンティノがアンコントローラブルになったことを嘆いています。

平和賞については、政治家の特定の政治的思想に肩入れして、そこを称賛するということをしてしまった。今までも世界中で起きている政治や紛争のイシューについては、FIFが公正中立でいられたのかという議論はあったのですが、ただ今回は具体的に賞を新設して与えたというのが、 1番大きな違いです」

世界のサッカー界における日本の役割

――当然ながら、JFA(日本サッカー協会)もFIFAの傘下です。日本でサッカーを見ている我々からすると、今後は、FIFAおよびそこにアプローチするJFAのどういう部分においてウオッチしていく必要があるでしょうか。

山崎「まずは、問題の根源になっている、ガバナンスの構造を変えることが大切だということを認識することですね。先ほど述べたリーグとFIFPROが起こしてる訴えが認められれば変わっていくと思いますが、それと並行して、FIFAが独占団体で競争が働かない組織であるということが問題だと認識することも重要です。

FIFAがプロサッカーのリーグ・クラブや選手のことを聞かずに暴走するなら、有力なリーグと選手会が、別の国際大会やリーグを作っていく動きを真剣に考えていくことも重要です。欧州では、FIFAがその動きを恣意的に妨げることは違法という判決も出ているので、そうした動きを現実化させてプレッシャーをかけていくことも必要です。

実際、FIFAが関わらない7人制のサッカーの国際大会の新設など新しい動きも出てきています。日本は、国際サッカー界の中心的存在だった欧州、南米とも距離があり、また最近力を持ってきている中東各国や米国とも異なる環境にあるので、より中立的で良心的な立場から、あるべきサッカー界の未来に向けて、積極的に発言や行動をとっていくにふさわしい立ち位置にあると思います」

かつて、1990年代、日本外交は戦後以来の米国に従属する軛は持ちながらもことユーゴスラビア紛争においては、この米国、ロシア、ドイツ、中国などとも距離を置いた公正な立場を貫き、独自のプレゼンスを示すことで、すべての民族からの信頼を得られていた。期待したいが、サッカー界においては現状ではまだなかなかそれが見えて来ない。

また2024年5月にAFC(アジアサッカー連盟)が、「会長の任期制限を撤廃する」というガバナンス的には破綻している意見を出して来た。4年任期制はFIFAゲート事件の反省を踏まえて、利権が固定しないように採用されていたものだが、これが根底からひっくり返る。

しかし、アジアの加盟国47の内、反対をしたのは、ヨルダンとオーストラリアだけで、日本もまた賛成してしまった。勇気を持って異議を唱えることで、アジア圏内で尊敬を集めると思うのだが。

山崎はしかし、若い日本の現役選手たちにこのジャンルにおいても希望を見ている。

山崎「FIFPROが現役選手から直接意見を聞くプレイヤーズカウンシルというセクションに日本からも遠藤航(リヴァプール)、長谷川唯(マンチェスターシティWFC)の二人が選ばれました。今は、選手がこうして欧州トップレベルのピッチ上で活躍するだけでなく、国際サッカー界の未来を創っていく当事者として関わるようになってきています。日本サッカー協会やJリーグ、WEリーグ含めて日本のサッカー関係者ができることはたくさんあると思います」

イビツァ・オシムは、2013年に故郷ボスニアで民族融和のためのスタジアム改修に日本の外務省がODA予算をつけた際、当該部署から「オシムさんもこのプロジェクトの実行委員会に入って欲しい」と言われたことがある。

プロジェクト自体は素晴らしい。しかしオシムはこの誘いにNOと言った。その理由は「日本政府がどれだけ清廉な入札方法を提示してもボスニアでは確実に汚職が起きて誰かの懐にお金が入る。そういう不正に自分の名前が使われて結果的に加担するのは本意ではない」というものであった。

権力は必ず腐敗することを看破していた。オシムが今、存命であればFIFAについてどうコメントしただろうか。

取材・文/木村元彦 写真/shutterstock

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