経営層向けエグゼクティブ・コーチングの導入が進む中、「個人が変わっても組織が変わらない」という構造的限界に直面する企業が増えている。経営者のビジョンが現場に浸透しない課題に対し、社長と幹部を同時に支援する「一体型アプローチ」が注目を集めている。国内外で組織開発を手掛ける「COACH M INTERNATIONAL COMPANY LIMITED」の松本瑞代代表取締役社長に、不確実な時代に求められる組織づくりの核心を聞いた。
なぜ経営者のビジョンは幹部に伝わらないのか――「個人」と「組織」を巡る対比と共通言語の欠如

近年、エグゼクティブ・コーチングは視座を高める手法として普及したが、個人の変容が組織の変容に直結しないという構造的な壁がある。経営層が個別にコーチングを受けても、その気づきが組織全体の共通言語にならなければ具体的な変化は起きない。
経営者だけがビジョンを先行させ、幹部や現場との間に乖離が生じれば、経営者の孤立や現場の混乱を招く悪循環に陥る。経営者が直面する本質的な課題は、自身のビジョンをいかに幹部に伝え、現場が自発的に動く仕組みを構築するかという組織デザインにある。
このすれ違いの要因は幹部の能力不足ではなく、経営者が幹部育成や期待伝達の体系的な手法を学ぶ機会が限られている点にあるといえる。
最低半年から2年を要する「一体型コース」の仕組み――単発セッションと何が違うのか

こうした個別型アプローチの限界に対し、社長の想いを幹部に直結させる「社長+幹部一体型」の統合コースが登場している。本プログラムの特徴は、社長や幹部を個別に支援するのではなく、経営者の想いの明確化から幹部による共有、そして現場での実行までを一連のプロセスとして統合している点にある。
従来の個別セッションでは経営者のビジョンが現場で停滞したり、幹部研修だけでは経営方針と実務が乖離したりする課題があった。本コースでは、まず経営者の課題や判断基準を明確化し、幹部がそれを自身の目標へと落とし込む。これにより、指示待ちの組織から、共通の判断基準のもと自律的に提案・実行できる組織構造への転換を促す。
意識変容には時間を要するため、6ヶ月から2年の長期伴走を前提としている。また、知見を横展開するための「プロコーチ養成・認定コース」も構築中だ。ここでは、単なるコーチング技術だけでなく、経営者の心理を読み解き、組織の仕組みに落とし込む実践力を重視する。一方で、企業の組織文化や成長段階は多様であるため、既存の枠組みを当てるだけでなく、コーチ自身に高度な経営視点と現場理解が求められる点は課題と言える。

