お菓子を楽しみにしていた彼女
旅行の予約を任されたとき、僕は隣り合った2席を選びました。窓側を彼女に、通路側を自分にしました。彼女が景色を見やすいほうがいいと思ったからです。
彼女は出発前から、車内で食べるお菓子をいくつも買っていました。「一緒に食べようね」と言われて、僕も楽しみにしていました。
ただ、1つ言えないことがありました。僕は乗り物酔いしやすいのです。せっかくの旅行で心配をかけたくなくて、当日はどうにかなると考えていました。
電話のふりをした理由
列車が走り始めてしばらくすると、やはり酔いが出てきました。隣では、彼女がお菓子の袋を開けようとしていました。
そのまま隣に座っている自信がなくなり、僕はスマホを手に取りました。「ごめん、仕事の電話」と言って、デッキへ出ました。仕事なら彼女も深く聞かないと思ったのです。
席に戻っても、また酔いが戻ってきます。そのたびに同じ理由で席を立ちました。彼女の膝の上のお菓子は、ずっと開かれないままでした。僕は心配をかけたくないと言いながら、彼女を何度も1人にしていました。
