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AIは「失恋の痛み」を消せない…精神科医が語る、どれだけ賢くなってもAIに届かない“人間の領域”

AIは「失恋の痛み」を消せない…精神科医が語る、どれだけ賢くなってもAIに届かない“人間の領域”

AIに悩みを相談し、カウンセリングの相手として使う人が増えている。知識を補い、問題を整理し、24時間寄り添ってくれるAIは、メンタルケアの領域でも大きな可能性を持つ。一方で、精神科医の益田裕介氏は「AIでもフォローしきれない痛みがある」と語る。博報堂メディア環境研究所・山本泰士著『母を愛していても理不尽な要求は断っていい、とAIは言った。』より抜粋・再構成し、「人間にしかできないこととは何か」を語った山本氏と益田氏の対談をお届けする。

AIに解決できない「痛み」が目立ってきている

山本 生活者はAIに人格を見出して、コミュニケーションしはじめています。「AIと恋愛する人」や「自分のカウンセリングにAIを使う」といった現象は、今が過渡期だから起こっているのでしょうか?

益田 いや、今後もずっと一定数はそうなると思いますよ。AIに悩みを相談すること自体は、別に悪いことではありませんから。

山本 なるほど。一方で、一部の科学者たちは「AIの普及が『人類の家畜化』につながるのではないか?」と警鐘を鳴らしています。様々な場所にAIを用いたプロダクトが普及し、AIに頼ることが当たり前となる社会の中で、人間が主体性を持ってAIと付き合っていくためには、どのような心構えや距離の取り方が必要になってくるのでしょうか?

益田 それを考えていくために、まずは実際の臨床現場で感じていることからお話しします。私はもともと「AIによって物事を整理して知識を補えば、人間はもっと安心できるようになるのでは?」と考えていたんです。ただこの1年で、実際はそうなる人とならない人がいることに気づきました。

山本 著書の中で、AIに質問をさせて自分史をつくって自己理解を促すなど、AIメンタルケアの手法を多数ご紹介されていましたね。

益田 そうですね、症状が軽い場合はそれで良くなっていくケースもあります。また、発達障害は部分的な知的能力障害と言えるので、AIが苦手な領域をカバーしたり補助してくれたりしています。そうなると今度は、「パーソナリティ機能」が低い「パーソナリティ障害」と呼ばれる人たちが目立つようになってきました。こういった人はAIでもフォローしきれないんです。

山本 パーソナリティ機能、パーソナリティ障害というのは?

益田 そもそも精神医学の世界で、知性は「認知能力」と「非認知能力」の2つに分けられます。認知能力はいわゆるIQなど数字で表せる能力です。これが低いと境界知能や知的障害、能力の中で凹凸があると発達障害と診断されます。

もう1つが非認知能力です。性格や我慢強さなどの学力では測りにくい心の強さを指し、「パーソナリティ機能」とも呼ばれます。さらに、このパーソナリティ機能には「自己機能」と「他者機能」の2つがあります。

自己機能は「自分とは何か」「自分のやりたいことは何か」が分かっているかどうかで評価されます。簡単にいうと、他人から言われてすぐ気持ちが変わる人は自己機能が低い、何を言われてもあまりブレない人は自己機能が高い、ということです。

他者機能は「他人の気持ちが分かる」「尊敬できる」「親密感を持てる」などが基軸になります。ポイントは、仲間や好きな人の気持ちだけではなく、嫌いな人や敵の気持ちもなんとなく理解できることですね。こういったパーソナリティ機能が低いと、人間社会の中で騙されやすいし、嫌な思いをするから生きづらいわけです。

痛みは、いくらAIにアドバイスをもらっても解決しない

山本 パーソナリティ障害は、なぜAIによってフォローしきれないのでしょうか?

益田 従来、精神科ではパーソナリティ障害のある方に対して環境整備や認知行動療法などを行ってきました。つまり、人間が話を聞き、問題を整理する部分に時間を費やしてきたんです。今、その部分はAIで代替できるようになってきました。

その結果、いよいよ生々しい人間性の部分と対峙する必要が生じてきたんです。それは、例えば「自分の感情をコントロールできない」「頭ではダメだと分かっているけど、ホストにハマってしまう」といった悩みです。

ただ正直、感情のコントロールができない人に「落ち着こうとしても、落ち着かないんです。どうしたらいいですか?」と聞かれても、答えようがありません。だから、「30分深呼吸して、泣き続けるしかないですね」と伝える。そうすると、「やっぱりそうなんですね」となるわけです。

頭では分かっているけど、心が乱されることってありますよね。僕は元自衛官なのですが、行軍訓練では足が痛くても歩くしかない。精神的な痛みも同じです。片思いや失恋の痛みは、体験しないと分からないでしょう? 痛みは、いくらAIにアドバイスをもらっても解決しません。

山本 AIはその痛みを理解し、解決方法を伝えられないのでしょうか?

益田 AIもデータ上はそういった痛みについては理解しています。中学生が片思いで失恋したら「○%の人は1カ月ぐらい落ち込む」とか「成績が○%落ちる」といった、数字的なものは人間以上にインプットされている。けれど、AIは痛みを取り除いてはくれません。結局、耐えるのは人間自身です。

だから、「あの人も私も同じように痛みを感じたんだ」と他人に言われることが、これから価値を生むことになるはずです。でも、「骨折して、痛み止めを飲んでも痛い。どうしたらいいですか?」「それはどうしようもないので、6時間耐えてください」とAIに言われてもいまいち納得できない。だから、人間の医者から「僕が同じ怪我をしても、痛みに耐えるしかありません」と言われて納得するわけです。

「精神科医も、ネットに悪い口コミを書かれたら腹が立ちますよ」と言われたら、「ああ、みんなやっぱりそうなんだな」と腹落ちするじゃないですか。だから理屈で説明できることはAIに任せるとしても、最後の「その痛み、俺も感じたよ」「いや、俺もそうだったよ」と寄り添い、言葉を伝えることだけが痛みを感じている患者に対して人間ができることとして残っていくのではないでしょうか。

山本 AIは24時間いつでも寄り添って気兼ねなく悩みを聞き、相談に乗ってくれます。すぐに回答してくれるし、回答もスマートです。しかし、身体をもって痛みを感じることはできない。人間はすぐに回答できないことも多いし、感情的に不完全で、愚かな失敗もする。でも、痛みを感じる身体を持っています。AI時代だからこそ、そんな人間の意味が生まれてくるということは面白いですね。

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