「意外と楽勝!?」ナメてかかった怒涛の4日間スケジュール

【初日】
・板の材料となる素材を実際に見たうえで、どのような特性があり開発時になにを変えると、なにがどう変わるのかを理解する。それが、どのように部材として加工されているかを把握。
・午後は工場見学をしてスキー製造の行程を見学。
【2日目】
・板作りの要である組み込みを体験し、製品基準を満たす板を完成。
【3日目】
・もうワンペアの板を作り、2本合わせて研磨し、最終的な品質試験をクリアさせる。
【4日目】
・全体を振り返り、知識的な部分の補完。
という日程。なかなか分厚い日程と思いつつも、「あ、意外にそんな感じで板って作れちゃうんだ」という考えが頭のなかに浮かびました。そんな甘い考えからスタートした1日目。
ここからはスキー板の素材の説明、特性の説明、素材加工の説明、さらには作業工程に入っていきます。
「開発=カッコいい」は大間違い! 想像以上に泥臭い6つのプロセス
「スキー板の開発って格好良く聞こえると思いますが、凄く泥臭いものなんです」

今回の板作り研修を担当してくくれた江戸さんから流れを説明してもらった時にいただいた言葉だ。板の開発とは以下のようなプロセスの事を指すとのことだ。

まず最初に、開発者の経験と乗り手の意見を交えて目指すスペックを決定する。どのような素材を使うと、どんなスキーになるかをデータ上で試算し、その上で、検討を重ねてひとつのスキー形状に落とし込む。
次にスキー製造に最も重要な、金型を製作する。
金型の製造はコストと時間が非常にかかる作業であり、後戻りのできない工程だ。長さ、形、ロッカーやキャンバーなど、スキーそのものの形を作るための道具である。
金属を削って溝を掘り、それを曲げてスキーの形状にしていく。もちろん1モデルに3つの長さ展開があれば、金型は3つ必要になるわけだ。

金型が完成したら、ようやく試作が作れる。そこからフィールドテストをして、「軽くしたいけど硬くしたい」「もっとギューンと返ってきてほしい」「もっと不整地で安定した乗り心地が欲しい」と言ったテストライダー達の意見を吸い上げる。
スキー板の理想の乗り味を決めるため、本社の開発担当者はテストライダーの意見をもとに、素材の組み合わせや構造の微調整を何度も繰り返す。一度の試作品の制作で上手くいくことはほぼなく、何本も別素材、別構造でテストし、トライ&エラーの先にようやく納得いく物ができるとのことだ。
スキー板の作る際、その特性を決定するために使用される素材たちを見ていこう。
以下の素材たちはすべてを一つのスキー板に使うわけではなく、制作されるスキー板の特性に基づき、必要量、また不必要が判断される。
スキー板の半分は「木とアレ」だった!?
脳がバグる11の構成素材

木材はスキー制作にあたり板の特性に合った樹種を指示し、圧着した板状で輸入する。求められるスキーの特性によって木の密度、重量、特性を組み合わせ合板状の木材だ。スキー板の芯材となる木は主に1種類から3種類程度で構成されている

透明な素材のシート材を購入し、印刷する。ストラクチャーというデザイン入りの透明シートもある。求めるスキーの性能とトップシートで出したいデザイン表現に合わせて印刷方法を選ぶ。それらは昇華印刷かデジタルプリントか、表面印刷か裏面印刷かを選ぶことになる。昇華印刷は発色がよくはがれにくいのが特徴。反面、濃淡表現や特殊な質感表現は苦手。デジタルプリントは質感表現の自由度が高い。一方で、傷や摩耗による劣化が起こりやすくなる。メリット・デメリットを考慮し、表面印刷、裏面印刷の決定をする

求めるスキーの性能に対して分子量を決め、黒、透明、カラーの中から選びソール材を購入する。求めるスキーの性能に対して分子量を決め、黒、透明、カラーの中から選びソール材を購入する。この時の分子量が高ければ高いほど、ワックスを良く吸い、良く滑り、摩耗に強い良いソールになる事が多い

求めるスキーの性能に対して材質、硬度、厚みを決定する。ソール全体を覆うワンピースエッジ(ラウンドエッジ)やツーピースエッジなど板に合わせて選ぶ

板のエッジとトップシートの間のサイド面の素材。主にABS樹脂や強化プラスチック。数種類の異なる材質から、求めるスキーの性能に対して使用するものを決定

板の安定性や静進性を出すため、内部にシート状にして入れたりする。軽量の木材を使った場合、ビンディング取り付けエリアにだけ、補強で入れたりすることもある

ガラス繊維を編み込んだもの。カーボンなどが配合されたものもある。編み込む方向やその量、太さ、重量など、求めるスキー性能によって仕様を選定する。補強素材であり板の耐久性の向上とトーションやフレックスなどのフィーリングを調整する目的で使用する。布状のものと板状に加工されたものがある

カーボン繊維を編み込んだもの。編み込む方向やその量、太さ、重量など、求めるスキーの性能によって選定する。少量の使用で反発が出て、スキーの個性が強く変わることがある

振動分散率が高い素材。板のバタつきを抑える目的で使うことが多い

自社選定のエポキシ材と硬化剤を混ぜて使う。硬くなりすぎず、またゴムのような弾性がでない。たわみを適度に出すように使う

接着が困難な素材同士を上手く付着させたり、弾性率の異なる素材同士が剥離しないようにする。接着性向上の役割を果たす
面白いのは、スキー板の重量の半分以上は芯材である木材と、接着剤だということ。スキー板は板なのか、という一つの問いは、木であり、接着剤が半分を占めているのだ。
それぞれの素材は数種類から、数百種類を超えるものもあるという。それらを求めるスキーの特性を出すために、無限とも言える組合せのなかから選択していく。
開発とは、まさにこうした途方もつかない作業だということを改めて実感。
材料がどんどん変化していく、加工の行程

さて、続いて、板作りの行程に入る前に、素材を部材へと加工していく。

先ほど紹介した合板状の木材をスキーのアウトライン状に削り出したのち、不等厚を削り出していく。不等厚というと耳慣れない言葉かもしれないが、スキーを上から見た時の形に削り出す行程がアウトラインの作成、横から見た形に削り出す行程が不等厚の作成といった感じである。薄い箇所、厚い箇所。反っている箇所を削り出すイメージだ

様々な印刷方法でスキー型に合うようにシート状にする

印刷かダイカットかが選択されたのち、ダイカットマシーンにてスキーの形状に沿ってカッティング

自社開発のベンダーマシーンによって4軸(XYZ+捻じれ)で加工

スキーの不等厚に合う形にカット。合着しやすい状態にする

必要な物を全体に使用するか、部分的に使用するか決めて用意

必要な物を板状の状態でスキー型に合うようにカット

必要な物を全体に使用するか、部分的に使用するか決めて設定

板の長さ、太さ、使用する部材の層の数などを考慮して使用量が決定
写真にはないが、特殊化学繊維や補助剤も必要な部分に必要な量を設定する。
以上のように素材は加工してそれぞれの部材となり、スキーへと組み込まれていくことになる。
データベースを凌駕する職人の勘! そしてやってきた「破壊検査」
そんなことを勉強していた折、本社スキー開発担当の里村さんがすでに販売されている板の素材変更をしていた。
より軽量だが、板としての剛性を失われない新作の板を製造していたのだ。


ブルーモリスは過去の経験から独自のデータベースを持っており、素材の変化や増減をデータ入力すると、重量と剛性がどのくらい変化するかという計算を瞬時にできる。
しかし、それが完璧に上手くいくとは限らない。
実際、手に取った時の重量や剛性を十分に感じたとしても、破壊検査などによって基準値に達していない場合は、量産化はできない。
里村さんは続いて、FRPを限りなく薄いものへ変え、カーボンを張り付けて計量化を図っていた。

スキーの特性がおおよそ整ったとみれば、次は破壊検査である。
破壊検査は3種類。ビンディング取り付けのネジのひっぱり強度、板の平面に対する強度、ねじりに関する強度。このテストを板が破壊されるまで力をかけて検査する。



