取り出したアルミニウムが、次のAppleデバイスになる
さて、ここからが本題だ。割れて動かない、査定ゼロの端末はどうなるのか。
「金銭的な残存価値がなくても、環境的な価値は大きいということを知っていただきたいのです」とブラウンさんは言う。

iPhoneにもiPadにも、アルミニウム、鉄、タングステン、銅、金、コバルトといった重要な素材が使われている。回収したデバイスは検査され、再利用も修理もできないものは『Daisy』という分解ロボットを有するシステムへ送られる。DaisyはiPhoneを36機種、1時間あたり最大200台のペースで分解できるという。他の製品は高度なシュレッダーや選別機が担当する。
リサイクルと分別には、(溶かしたり、峻別したりするために)大きなエネルギーや手間がかかる。だからこそ、Daisyなどの技術を使って、最初から分解して素材ごとに選別することが大事なのだ。部品レベルまで分解しておけば、溶かしたり峻別したりするためのコストは下がる。

分解したiPhone部品1トンから回収できる銅と金は、鉱石2000トンから採れる量に匹敵するのだそうだ。鉱山で地中を掘り進めなければ得られない素材が、引き出しの中の1台から生まれるのだ。眠らせておくのはあまりにももったいない。

重要なのは、これが『捨て方の話』ではなく『作り方の話』だということだ。回収された素材は精製され、次のApple製品に戻っていく。実際、2025年に出荷したApple製品全体で、素材の30%が再生素材となった(過去最高)。
Appleが設計するすべてのバッテリーには100%再生コバルト、すべてのマグネットには100%再生希土類元素、自社設計のプリント基板のメッキには100%再生金が使われている。今年発表された『MacBook Neo』に至っては、筐体からディスプレイ、キーボード、ロジックボードまで含めて全体の60%が再生素材で作られている。最も安価なMacBook Neoは、同時にMacノートブック史上最小のカーボンフットプリントで生産されているのである。

もちろん、すべての素材がApple製品に戻るわけではない。Apple製品は要求される素材のグレードが非常に高く、その純度が得られない場合は、回収した素材はサッシや自動車部品といった他業界へ回ることもある。「信頼性、耐久性、品質の基準を満たさない素材は、Apple製品には一切入りません」とブラウンさん。エコだから多少妥協、という発想がそもそもないのだ。逆に言えば、我々が返した1台が確実にどこかの素材の需要を減らしている、と考えていいだろう。
問題は、知られていないことだ
日本のリサイクル率について聞いてみたところ、ブラウンさんの答えは慎重だった。
「国ごとにリサイクル率の大きな差があるというわけではありません。国民性の問題ではないと思います。このサービスがあると知られているかどうかが大きい。伝えるのは我々の責任です」

Appleは20種類以上の電子機器を無料で引き取る。ストアで売っているものはほぼ何でも、というスケール感で、Androidスマートフォンも受け付ける。ケーブルやドングルも構わない。だが、この事実をどれだけの人がご存知だろうか。
割れて値段の付かないiPhoneは、廃棄物ではなく鉱山の負荷を減らす素材であり、次のMacBookの筐体の一部かもしれないのだ。ならば引き出しを開けるのは、今週末でいいのではないだろうか。まだ動く1台があるなら、なおのこと早めのTrade Inを検討したい。
(村上タクタ)