噂だけで見ていた保護者
私の元には、他の保護者の方からも、たびたび声が届いていました。
「あの親、モンペだよね」「毎日のように学校に来てるらしくて、何か不満があるんでしょうか」と聞きました。同僚の先生たちからも「ちょっと気をつけたほうがいいかもね」と言われていたのです。
私は新任ではなく、保護者対応で苦労した経験は何度もあります。「またそういう保護者の方かもしれない」と、正直、心の中で身構えていました。そのお母さんと直接話したことはありませんでした。以前、校内で見かけた控えめな佇まいは、周りで語られる「迷惑な保護者」のイメージと結びつきませんでした。
雨の駐車場に立つ母親
冷たい雨が降る日のことでした。放課後の校内点検をしていた私は、職員室から見える駐車場の隅に、傘を差して立っている女性に気づきました。
近づいてみると、それは噂のお母さんでした。傘を差したまま、校舎のほうを見つめています。
「お母さん、こんな雨の中、何をされているんですか?」声をかけると、はっと顔を上げて「すみません……ご迷惑をおかけして……」と頭を下げました。
私が「毎日、ここに立っていらっしゃったんですか?」と聞くと、お母さんは少しの沈黙の後、こう答えました。
「あの子が、教室を抜け出してしまった時、すぐに迎えに行けるのは私だけなので」
