マイケル・ジャクソンのことを“マイちゃん”と親しみを込めて呼ぶ平野レミさん。大ファンへと導いたのは、長男でミュージシャンの和田唱さんだった。一方、亡き最愛のパートナーでイラストレーターの和田誠さんはというと――。和田家でどのように愛されてきたのか、ご自宅で語ってもらった。
和田唱を連れていった初来日公演
―そもそも、いつ頃どんなきっかけでマイケル・ジャクソンのファンになったのでしょう?
平野 息子の唱が小学生のときだったかしら? あの子は小さい頃から、向こうの音楽ばっかり好きで聴いていたんだけど、マイケル・ジャクソンっていう人がいて、とにかくすごいんだって、ずっと言っていたの。学校から帰ってくると、弟と二人でマイちゃんの曲を流しながら、家族の前で踊ってみせるのよ。マイちゃんと同じようなハットを買ってきて、それを投げ捨てながら「ポゥ」とか言って(笑)。
―これが、そのときの貴重な写真なんですね(※写真は『kotoba』2026年夏号に掲載)。
平野 あるとき、ウチの母がその様子を見て、「あらあら、お手てをそんなところに当てちゃダメでしょ」って言っていたのを覚えているわ。人様の前で自分のお股を触るのはやめなさいってね。
そうしたら今度は「マイケルが日本に来るから、お母さん、連れていってよ」って唱が言うのよ。そこで横浜スタジアムまでマイケルのコンサートを観にいってね。みんな立つから大人と同じ高さになるよう分厚いマンガ本も数冊持っていったの。
―ということは、1987年9月の来日公演ですかね?
平野 そうそう。もうだいぶ前のことになるのね。息子もまだ小さかったから、私も一緒についていったんだけど、ビックリしちゃったのよ。マイちゃんがカッコよすぎたから。もう、ビビビビって雷に打たれたみたいになっちゃって。そこから私もマイちゃんの虜とりこになってね。
そうしたら唱が喜んで「だったら、これを読め、あれを読め」って、いっぱい本を渡してくれたの。読んでみたら、歌と踊りはもちろんすごいんだけど、自分で曲も作るし、歌詞も書くことがわかって。それと、マイちゃんの生い立ちなんかも知ることになったんだけど、子どもの頃から家族と一緒にずっと頑張ってきたっていうじゃない?
もちろん、そこにはいろいろな葛藤やツラいこともたくさんあったみたいだけど。そんなふうにして、来る日も来る日もずっとマイちゃんの本ばかり読んでいたの。和田(誠)さんのごはんを用意するのも忘れるぐらい、読むのに夢中になって……。
―コンサートがきっかけでハマってしまったんですね。
平野 私はそれまで、誰かに入れ込んだりするようなことはほとんどなかったんだけど、マイちゃんだけは特別。もう、本当に夢中になっちゃったの。文字どおり、夢に見るくらいまで(笑)。さらに唱が「この記事、読んでおいたほうがいいよ」なんて言っていろいろ雑誌とかも渡してくるから、全部読んでね。
そういうものにひととおり目を通したら、もう胸がいっぱいになって、和田さんに「いやぁ、マイちゃんって天使よね」って言ったの。そうしたら和田さんが「天使は整形しないだろ!」とか言うもんだから、もう頭にきちゃって……。
それでケンカになっちゃって、しばらくごはんを作ってあげなかったんだけど、今考えたら和田さんはちょっとヤキモチを焼いていたのかしら? 私があんまりにもマイちゃんに夢中になっているから、嫌味のひとつでも言ってやろうって感じだったのかもね(笑)。
―ちなみに、和田誠さんはマイケルに対してどんな温度感だったんですか?
平野 どうだったんだろう、和田さんはそうでもなかったんじゃないかしら? フランク・シナトラとか昔の人たちが大好きだったから。あとは、音楽っていうよりも、やっぱり映画よね。
ウチはテレビを観ない家で、和田さんは帰ってくるといつも昔の映画ばっかり観ていた。当時はビデオだったけど、ビールを飲みながらフレッド・アステアとかのミュージカル映画をよく観ていてね。
―それこそフレッド・アステアはマイケルにも大きな影響を与えていますよね。あの踊りのエッセンスを継承しているようなところもあります。
平野 そうなのよ。ただ、やっぱりアステアは昔の人って感じだけど、マイちゃんの踊りは今観ても全然古く感じない。今の若い娘がキャーキャー言っている男の子たちのグループのダンスだって、多かれ少なかれマイちゃんの影響を受けているんじゃないかしら? それは本当にすごいことだと思う。若い人たちにもぜひ、オリジナルであるマイちゃんのダンスを見てほしいわ。絶対ビックリするから。
マイちゃんの歌を聴いていると、シャンソンやりたくなくなっちゃう
―たくさんの本や雑誌を読んでマイケルのことは詳しくなったと思いますが、ご自身としてはマイケルのどこが魅力的だったのでしょう?
平野 もう、全部よ! 強いて言うなら、いちばんは踊りかな。とにかくカッコいいんだから。ウチの息子たちじゃないけど、あの頃は子どもから大人まで、みんなマイちゃんの踊りの真似をしていたじゃない? ムーンウォークなんて最たるものよ。
―確かに。マイケルのアルバム、もしくは楽曲としては、どのあたりがお好きなんですか?
平野 ええと、どれがいいかしら……。基本的には全部好きなんだけど、私はマイちゃんが歌うメロディがなにより好きなのよね。「She’s Out of My Life」も大好きだし、一時期は「Heal the World」ばっかり鼻歌で歌っていたこともあって。「You Are Not Alone」もイイわよねぇ。マイちゃんの声がすごーく優しくて。
―ビート感の強いダンサブルな楽曲よりも、スローなバラード曲のほうがお好きなんですか?
平野 うん、そういうのは好きかもしれない。だって、歌も本当に上手じゃない? なんであんなイイ声が出るんだろうって、いつも不思議に思っちゃう。にもかかわらず、踊り始めるとキレがすごくて……その落差が、たまらないのよ!
―レミさんはシャンソン歌手でもあるわけですが、その立場からはマイケルの歌についてどんな感想をお持ちなのでしょう?
平野 マイちゃんの歌を聴いていると、シャンソンやりたくなくなっちゃうんだよね(笑)。だって、もう体の全部がぶわーって動いて、爪の先まで感じちゃうから。シャンソン歌手の人たちには悪いけど、シャンソンでそういう感覚にはならなくて。あの全身がビリビリする感じは、マイちゃんの音楽ならではよね。
インタビュー・文=麦倉正樹 撮影=増永彩子
(集英社クオータリー『kotoba』2026年夏号より一部抜粋)

