経済的な不安もなく、端から見れば「満ち足りた家庭」を築いている中年女性が、ある日突然、自らその生活を捨てる。現在、英語圏を中心に「立ち去る妻(ウォークアウェイ・ワイブズ)」と呼ばれる現象が注目を集めている。
人生100年時代を迎え、残りの長い人生を「妥協」で終わらせたくないと願う女性たちが、なぜ今、自らの手で新たな人生を切り拓こうとするのか。谷本真由美氏の書籍『世界のニュースを日本人は何も知らない 激レア&ディープ情報版』より一部を抜粋・再構成し、現代の夫婦が直面する「目に見えない亀裂」と、女性たちが求める真の幸福のあり方を浮き彫りにする。
「立ち去る妻」──食器洗い機がもたらした結婚生活の終わり
夫婦関係に悩むのは日本人だけではありません。
最近は英語圏で「立ち去る妻」(walkaway wives/ウォークアウェイ・ワイブズ)の現象が話題になっています。豊かで満ち足りた生活を送る中年女性が、不倫や経済的な問題がなくても家庭を捨ててしまうのです。
49歳で3人の子どもの母、結婚20年目のカット・ファーマーさんは、イギリスでは比較的裕福な専門職の既婚女性です。
夫とは28歳の時に出会います。彼はロンドンの金融街の弁護士で、ファーマーさんはヘッドハンターでした。おそらく彼らはイギリスで上位1%以内に入る裕福な専門職夫婦です。
良い夫、良い父親、良い人生の伴侶と確信したので、2003年にハンプシャーで大規模な結婚式を挙げ、子どもたちも産まれました。
子どもたちが小さい頃、ファーマーさんはキャリアが子育てに合わないと悟り、仕事を辞めて自営業に転職しました。
そのころ夫はロンドンで長時間働き続けました。
夫との間には19歳の娘と17歳と15歳の2人の息子、緑豊かなケント州の美しい家、そして親しい共通の友人グループもいます。
ある火曜日の夜、夕食後にお皿やグラス、食器類を巨大な食器洗い機に押し込み、ざっくりと互いに積み上げていました。
結婚が終わった瞬間
そのとき夫の目が背中に向けられるのを感じました。彼は突然手を出してきて、皿やグラスを実に丁寧に入れ直したのです。いっぽうでファーマーさんはそれを再度入れ直し、乱雑に積み上げたのでした。
その瞬間、ファーマーさんには抑えられないような衝動と怒りがこみあげ、夫を敵対視するようになったというのです。結婚が終わった瞬間だと感じたのです。
彼女は自分が結婚後別の人間になってしまったと感じました。夫婦の間の関係は、ロマンチックというより機能的で、むしろルームメイトのようだと感じたのです。
彼女は言います。これは45歳から65歳の女性が結婚に見切りをつけるという、近頃増え続ける「立ち去る妻」の現象であると。
イギリスの中年女性のオンラインコミュニティである「ヌーン」(Noon)が作成した報告書によると、離婚のほぼ半数が中年女性主導で申し立てられ、56%の女性が「不幸」を理由に結婚を解消したいと述べているというのです。
「立ち去る妻」の3分の1は、離婚後に「これまで以上に幸せだ」と感じたと述べています。
ファーマーさんは2022年に離婚します。そしてまったく後悔しなかったというのです。
中年期にある自分たちは統計的に90歳以上まで生きる可能性があり、まだまだ長い時間が待ち受けているので、別の選択肢を選ぶ道もあるべきだというのです。幸福が減っていると感じたら、女性が妥協するべきではないと感じたのです。
ファーマーさんの結婚生活も最初の頃は順調でした。
しかし仕事と子育ての両立は大変むずかしく、子育ての大半は彼女が担当。夫との財力やキャリアとの間にギャップが増えて、夫婦の関係が変わってしまいました。しかも息子の一人は自閉症を抱えていたのです。他人からも厳しい目を向けられるので、家族は誕生日パーティーに招待されることもありませんでした。これはイギリスでは社会的な死を意味します。

