一度は廃業も考えるほど赤字だった老舗の純喫茶が、全国屈指の人気有名店となった。その裏には、店主の譲れない想いと、客との絆があった。
食べログ「百名店」入りにびっくり「何も知らされてないです…」
「ええっ!? 何も知らされていないです……」「ど、どうすればいいのでしょうか??」――。
これは、今年6月に食べログの「喫茶店 百名店 2026」に選ばれたことを知った、東京・上野の老舗純喫茶「珈琲 王城」の公式Xでの反応だ。
百名店に選ばれたとなれば、店には事前に連絡がありそうなものだ。しかし、店主の玉山珉碩さんによると、選出の前も後も、食べログ側から連絡は届いていないという。
「SNSでお客様から教えてもらって、初めて知りました。経験者の方からは『忘れた頃に記念品が届きますよ』と教えてもらいましたが、今は本当に何もないので、実感もあまりありませんね。また、食べログやGoogleの評価とは縁がないというか、正直、うちとは別の世界だと思っていたんです」(玉山さん、以下同)
うれしさと同時に、戸惑いも隠せない様子の玉山さん。王城はXを通じて客とコミュニケーションを取ることも多く、口コミサイトの点数より、直接届く声をよく見てきたという。そのため、食べログからの評価は意外だったのだ。
「ただ、友人の喫茶店に百名店の盾が飾られているのを見て、『いいな』と思ったことはありますけどね(笑)」
選出後も、目に見えて客足が増えた感覚は、今のところないという。というより、取材に訪れた平日の午前中も、店の前にはすでに行列ができていた。もともと連日多くの客が訪れているため、百名店の効果が出ているのかもわからないほどなのだ。
ここまでの大繁盛店だけに、今回の百名店入りには「これまで入っていなかったことが意外」という声も多かった。
しかし、今の繁盛ぶりからは考えられないが、玉山さんが店を引き継いだ17年前、王城は廃業も考えるほどの経営難だったという。
経営難から全国屈指の人気店に
王城は昭和50年創業で、玉山さんは3代目にあたる。
「引き継いだ当時、売り上げから従業員の給料を払えば、ほとんど手元に残らず、経営者の給料は出ない状態でした。普通に考えれば、閉めるべきだったと思います。ですが、子どもの頃に父に連れられて、ここでスパゲッティやパフェを食べた記憶があり、僕自身が王城の一番のファンだったので、意地でも続けようと思いました」
玉山さんには別の本業があったため、自分の給料が出なくても店を続けることはできた。そこから、王城を大繁盛店へと立て直していった。
一方で、メニューなど店の中身は、大きく変えるどころか、むしろ変えないようにしてきたという。
先代と大きく変えたのは、宣伝だ。先代はテレビ取材や宣伝をあまり好まなかったが、常連客だけに頼っていては、いずれ先細りしてしまう。そこで玉山さんはテレビ取材も受け、SNSで店の情報を毎日発信するようになった。
「老舗の純喫茶には、常連客ばかりで入りづらいというイメージもあるそうなんです。料理や店内の様子を発信することで、まずはそのハードルを下げようとしました」
そして転機になったのが、2020年にX(旧Twitter)へ投稿したチョコレートパフェだった。
「かさ増しナシ」という言葉と、器いっぱいに詰まったボリュームが話題となり、店のアカウントは1日でフォロワーが約3000人増加。その週末には、いつもの仕込みではまったく足りないほど客が訪れた。
それからも一時的なブームに終わることなく、王城には客が訪れ続けた。
「少し大げさに言えば、Xに店を助けてもらったと思っています。ただ、やっていることを大きく変えたわけではありません。昔からのメニューも、むしろ変えないようにしてきました。急に人気になったというより、SNSなどを通じて『こういう店があるんだ』と、見つけていただけたのだと思います」
その後、コロナ禍で再び危機を迎え、このときも廃業が頭をよぎった。しかし、通販やコーヒー券を販売すると、常連客やSNSのフォロワーが店を買い支えた。5000円分の商品に1万円を振り込み、「おつりはいりません」と伝えた客もいたという。
こうしてコロナ禍も乗り越え、王城は再び連日行列のできる大繁盛店へと戻った。

