最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
「先生はターゲットだったの? それとも流れ弾が当たったの?」“中村哲が撃たれた”と突然の悲報を受けた同志たちの胸に去来した思い

「先生はターゲットだったの? それとも流れ弾が当たったの?」“中村哲が撃たれた”と突然の悲報を受けた同志たちの胸に去来した思い

襲撃の手口

凶行は、ジャララバード市街の北東、カブール川に架かるベスード橋へ向かう「ビスード通り(Bihsud Road)」のアフガン料理店の前で起きた。

毎朝、スタッフハウスを出た中村たちの車は、市街地を横断するGTロード(Grand Trunk Road=大幹道)に合流する。

このGTロードを、中村の一行は東へ1キロばかり走り、左手にナンガルハル州農業灌漑牧畜局の建物を見ながら左折し、ビスード通りに入る。そのまま南から北ヘ500メートル余り走ると右手にそのアフガン料理店「ムスタファ」がある。

ジアがヤシンから聞き取った話と、目撃者の証言をもとにした報道などによると、犯人グループは、ふた手にわかれて、中村たちを襲っている。まず、犯行の数分前、民族服のシャルワルカミーズを着た3人組の男がムスタファの北側のビスード通りと直角に交わる小路に白いカローラで乗りつけ、自動小銃を抱えて降りてきた。そこに中村の四駆を先頭に警護官の車が後ろにぴったり張りついて徐行してくると、後方から猛然と、もう一台の白いカローラが走ってきた。

そのカローラが中村の車を追い越し、右に急ハンドルを切って行く手を遮るや、乗っていた犯人たちは中村一行に銃弾を浴びせた。待ち伏せていた3人組も一斉に射撃する。

警護官が乗った四駆の後輪に銃弾が当たってタイヤが破裂し、けむりが濛々と巻き上がる。ヤシンは、幸運にもそれが煙幕となり、車の床に屈んでドアを押し開けて脱出できた。
 
1、2分で銃撃はやみ、襲撃犯は殺した警護官の銃を奪い、2台のカローラに分乗してムスタファの北角の路地を東へと逃走した。

九死に一生を得たヤシンは、中村の車に駆け寄った。運転手のザイヌッラーは頭を撃たれて突っ伏し、中村は助手席のシートの上で身体を丸め、拝むような格好でドアによりかかっていた。「大丈夫ですか」とヤシンが聞くと「大丈夫だ」と中村は小さな声で答える。

ヤシンは、中村の身体を抱え、タイヤがパンクした自分の車に運んだ。クラクションを激しく鳴らし、「道を開けろ! どけ! 道を開けろ!」と絶叫しながら、ナンガルハル地域病院へと急ぐ。

ヤシンの車が病院に着くと中村は担架に乗せられ、救急室に運び込まれた。寄り添う医療スタッフに「ザイヌッラーは無事か」と中村は問いかける。

ほどなく、事務所を出たジアたちが病院に駆けつけた。

二度のショック

ジアは、中村が銃撃で負った傷と、その処置について、ナンガルハル地域病院の主治医から聞き取った内容を、次のように私に語った。

「ドクター・サーブの右わき腹に深い銃創がありました。当初、傷は浅いと思われましたが、先生の血圧はどんどん下がり、血流を保てないショック状態に陥りました。体外への出血よりもお腹のなか、腹腔内の出血のほうが深刻でした。

弾丸は、右の背中から入って、胃をかすめて肝臓、腎臓の一部を傷つけて右わき腹から外に出たと主治医は見ていました。医師団は、大量の輸血をしつつ、開腹して、止血手術をします。全身麻酔で、出血部分をガーゼで圧迫して血を止める手術を施し、腹腔内を洗浄して、開いたお腹を縫合していました」

アフガニスタン政府は、(※ナンガルハル地域病院ではなく)ジャララバード空港内の米軍のクリニックで中村の容態を落ち着かせ、ヘリでカブール(の医療設備が整った米軍病院)へ移す予定を組む。

(※米軍が基地を置く)ジャララバード空港へ、中村を乗せた救急車がGTロードを疾走する。

狭い車内で、中村の弟子たち――ジア、ディダール、ファヒームは、昏睡する師のそばで祈りを捧げた。空港に向かう途中で、中村の拍動が止まりかけた。主治医があわてて心臓マッサージをして、心音は戻った。

救急車は、空港の敷地に入り、アフガン兵が立つ第一ゲートをくぐった。なおも進んで米軍の警備兵が歩哨に立っている第2ゲートに達した。

アメリカ人の警備兵は、その場に救急車を停止させ、後ろ扉を開けて、こう告げた。

「ここから先はわれわれが患者を運びます。こちらの救急車に患者を移してください」

これが、救急車なのか……。トヨタのハイエースのようなバンのなかは空っぽで、酸素吸入の機器もなければ、生体情報モニターもない。ディダールは言う。

「搬送の連絡をしたのに何の準備もしていない。すごいショックでした。ドクター・サーブが撃たれたのが最初のショック。空港内で米軍が準備した車で二度目のショックを受けたんです。ドクター・サーブをストレッチャーにのせたまま、酸素ボンベや心臓、脳波のモニターに点滴……すべてつけたまま米軍の車に移しました」

医師のジアは、憤然として、中村の身体を移した米軍の救急車に乗ろうとした。

「ノー!」米兵がはねつけた。

「あなたはこちらのエリアに入ってはいけない。規則です」

「いやいや、この人は、わたしたちアフガン人数100人が働く団体と、日本で2万人以上が支援してくれている組織の最高責任者です。わたしは医師免許を持っています。彼を見守らなくてはいけない。彼の容態を関係者に伝える義務があるのです」とジアは抵抗した。

「ノー、だめだ。一歩も立ち入ってはならない」米兵は頑なに拒んだ。そこで押し問答をしている暇はなかった。ジアが悔しさを声ににじませて、こう追想する。
「米兵に、ここはどこだ、アフガンだ、おまえたちの国ではない、と喉もとまで出そうになったけど、ドクター・サーブの治療は一刻を争います。抗議をしている時間はなかった。やむなく事務所に引き返したのです」

中村を乗せた車は、ジャララバード空港の奥に消えていく。さまざまな葛藤をくりひろげた相手、アメリカ軍の懐のなかへ、中村はたった1人で運ばれていった。

提供元

プロフィール画像

集英社オンライン

雑誌、漫画、書籍など数多くのエンタテインメントを生み出してきた集英社が、これまでに培った知的・人的アセットをフル活用して送るウェブニュースメディア。暮らしや心を豊かにする読みものや知的探求心に応えるアカデミックなコラムから、集英社の大ヒット作の舞台裏や最新ニュースなど、バラエティ豊かな記事を配信。

あなたにおすすめ