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「姉の時給30円」が原点。プロレスのリングを“誰もがいていい場所”に変える男

「姉の時給30円」が原点。プロレスのリングを“誰もがいていい場所”に変える男

プロレスは、激しくぶつかり合う競技だ。だが、その激しさの裏側には、相手を信じて身体を預ける「信頼関係」がある。技をかけるのも受けるのも、信頼がなければ成り立たない。だからプロレスは、“人と人が信じ合うことで成立する格闘技”でもある。

川崎を拠点に活動するプロレスリングHEAT-UP(ヒートアップ)は、その特性を社会へひらき「プロレスで社会貢献」を掲げてきた団体だ。障がいのある人の支援、青少年育成、地域貢献に取り組み、生まれつき耳が聞こえないプロレスラー・今井礼夢選手も所属する。

なぜプロレスを通じて社会支援を行うようになったのか。代表であり現役レスラーでもある田村和宏さんに、その実践を聞いた。

時給30円の衝撃

2026年1月28日に北沢タウンホールで開催された「HEAT-UP13周年記念大会」で就労支援の取り組みを実施。障がいのある人をスタッフとして雇用し、チラシ配布やチケットもぎり業務を担当してもらったという

「僕の姉がダウン症だったことは大きい」

田村さんが「プロレスで社会貢献」を掲げる原点は、家族の存在にある。幼い頃から当たり前に一緒に過ごしてきた姉。

「お姉ちゃんの時給が30円と聞いて衝撃でした。そんなに安かったら自立するのは難しい。それなら自分が何かできないかなと思って始めたのが支援のきっかけです」

賃金だけではない。偏見にさらされた経験もまた、田村さんの中に強く残っている。

「偏見もありました。僕としてはみんなと変わらないお姉ちゃんだったので、何がおかしいのかなと思ったんですけど……どうしても障がいのある人はこっち、みたいに区別されてしまう。それも悲しいなと思って」

だからこそ「一緒に作る空間」をつくりたかった。障がいのある人を“特別な存在”として囲い込むのではなく、同じ場所で同じ時間を過ごせるようにする。その発想は、プロレスという文化そのものの捉え直しにもつながっていく。

「プロレスで新しい文化をつくりたい。プロレスをもっとメジャースポーツにしていくためには、より身近なものにしていかないといけない」

かつてリングは、触るだけで怒られるような“聖域”だったという。だがHEAT-UPは、リングを開放する。障がいのある人も、そうでない人も、そこに上がれるようにする。それは、競技の門戸を広げるだけではない。社会の分断に線を引き直す行為でもある。

もちろん、理想だけでは続かない。活動を進めるうえでの難しさを問うと、田村さんは意外なほど淡々と言った。

「そんなに“世の中を変える”って思ってなくて。本当に身近な人と関わってくれる人が少しでもよくなれば、という気持ちです」

大きな言葉より、届く範囲から。田村さんの裏表のない性格が皆を惹きつけ、支援者や仲間が増えていく。

「支援は大変な時もある。でもうちの選手とかスタッフも分かってくれている。そこは嬉しい限りです」

プロレスは信頼で成り立つ競技

HEAT-UPよみらん道場のリング。シェイプアップ・ストレス発散・運動能力向上など様々な目的を持った方が通っているという

「プロレスは信頼関係の勝負なんです」

田村さんが繰り返すのは、プロレスが単なる腕力勝負ではないということだ。技を掛ける側だけでなく、受ける側の技術も必要になる。だからプロレスは、相手を信じて身体を預ける関係性が前提になる。

「相手を信頼しないと技もかけられないし受けられないのがプロレスです」

この“信頼の土台”は、社会の課題にも直結していると田村さんは見る。いま、地域社会ではコミュニケーションが希薄になっている。その実感があるからこそ、プロレスを通して人がつながり直すことに意味がある。

「プロレスを通して地域のコミュニケーションが活性化できたらいいなと。もっと地域の方々がつながって、ゆくゆくは安心・安全に暮らせる社会ができたら」

だからHEAT-UPは、試合でも“来やすい理由”をつくる。たとえば「18歳以下無料」という取り組みもその一つだ。

「とにかくみんなとつながれて、顔見知りになってほしいなという気持ちでやっています」

無料にすれば興行収入は厳しくなる。田村さんは借金1000万円を抱えている生活をSNSで赤裸々に投稿する。そんな厳しい状況でもリングを開くことは決してやめない。誰もが「いていい」と思える入口をリングを通してつくり続ける。

道場でも一緒だ。障がいのある人や、仕事に就くことが難しい状況にある人も、拒まずに誰でもまずは受け入れる。

「道場にきてくださる方には障がいのある方や、引きこもりでお仕事がなかなかできない方がいらっしゃるんですけど、練習をする中で自信がついて、就職が決まりましたとか報告してくれる。とても嬉しい瞬間ですね」

自信をつけるために重要なのは、“甘やかしすぎ”ないことだ。田村さんが重視するのは、できることを増やすための具体的なプロセスだという。

「小さい課題をどんどんクリアして自信がついていく姿は何人も見てきました」

配信元: パラサポWEB

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