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「姉の時給30円」が原点。プロレスのリングを“誰もがいていい場所”に変える男

「姉の時給30円」が原点。プロレスのリングを“誰もがいていい場所”に変える男

ネバーギブアップが自信を育てる

HEAT-UP所属の今井礼夢選手と助川蓮選手

では、なぜプロレスは自己肯定感が高まるのか。田村さんは「プロレスの醍醐味」をそのまま答えに置く。

「やられてもやられても立ち上がる、ネバーギブアップの精神。それこそがプロレスの醍醐味だと思うんです」

倒れて終わりではない。倒れても立ち上がる。その姿が観客を熱くするのと同じように、練習の現場でも「できないこと」への向き合い方が変わる。

「できないことに対して、道場の参加者が自然と応援している。みんなが誰にでも“頑張れ”という気持ちで参加してくれていて、そこがいいところかなと思います」

田村さんの指導方針は明快だ。厳しさで追い込むのではなく、褒めるポイントを探し、伸ばしていく。

たとえば腕立て伏せ。最初は1回もできなかった人が、練習を重ねてできるようになる。その“小さな変化”を、全員で喜ぶ。

「1回でもできるようになったら、“進歩しましたね”ってすごく褒める。その場にいるみんなもできたねって褒めてる。リングの上がすごくいい空間ができあがるんです」

プロレスというと、昭和的な根性論、厳しい上下関係のイメージが先行しがちだ。しかし田村さんは、一般の参加者に対してはそうした指導はしないと明言する。

安全面でも、思想は一貫している。基礎体力を重視し、怪我を防ぎ、一人ひとりを見て無理をさせない。

「基礎体力はしっかりやります。できないことを無理やりやらせることはしなくて、できることから伸ばす。反復して、どんどんできることを増やしていく」

この考え方は、障がいのある人の支援とまっすぐつながっている。

「誰でもできないことはあるけれど、何かできることはあるもの。だからそこを一緒になって伸ばしてあげるようにしています」

HEAT-UPには生まれつき耳が聞こえにくい難聴の今井礼夢選手が在籍している。障がいのあるレスラーについても、田村さんのスタンスは同じだ。

「できることがあるので、そこで勝負をする」

真っ当に勝負したら強い側が勝つ。それだけが勝負ではない。だから明確なルールをつくる。HEAT-UPに所属する小学生プロレスラーの助川蓮選手と闘うときには技や打撃を制限することで対等な勝負を成立させる。

「選手のできること、できないことを考えて、対等に戦えるルールづくりを真剣に考えています。助川選手と戦うときには、僕らはスープレックスなし、打撃なしというルールにしています。そうすると僕らの使える技が限られて、対等に戦える」

できることを見つける。できないことは無理にさせない。必要ならルールをつくる。そうして“勝負”を成立させる。その発想こそが、HEAT-UPの「肯定のリング」を支えている。

ベトナム・ダナンで行われた障がい者施設への訪問の様子

今後の展望を問うと、田村さんの視線は世界へ向いていた。すでにベトナム・ダナンの障がい者施設とつながりがあり、支援の活動を行なっているている。

「将来的には世界中に目を向けて、いろんなところでこういう活動をやっていきたい」

最後にメッセージをお願いすると、田村さんは“能力”ではなく“可能性”に言葉を置いた。

「自信がない人は、自分の中で何かできることを見つけてほしいです。もしそれが分からない方は、ぜひHEAT-UP道場に来て、一度レッスンを受けてみてください。僕が見つけていきたいなと思います(笑)」

リングは、強い人だけの場所ではない。誰かが自分の「できる」を見つけ、育て、ネバーギブアップの精神で立ち上がる場所でもある。プロレスが信頼で成り立つスポーツであるなら、その信頼はきっと、社会にも拡がる。HEAT-UPの取り組みは、その可能性を実践で証明している。

PROFILE 田村和宏
1980年生まれ・神奈川県出身。プロレスリングHEAT-UP代表。2013年に「プロレスで社会貢献」を掲げ同団体を旗揚げ。障がい者雇用や青少年育成、地域貢献活動に力を入れる。ダウン症の姉がいる経験を背景に、障がい者施設訪問、大会への無料招待、障がい者雇用の推進(食品ブランド「EAT-UP」販売など)を実施。川崎市多摩区を拠点に地域密着型の興行を運営し、3代目多摩区観光大使にも就任。自身も社長兼レスラーとしてリングに立ち、リングネームはTAMURA☆GENE☆。

text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
写真提供:HEAT-UP

配信元: パラサポWEB

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