パンクというジャンルを広めた功績
さらに、X上でも言及している人が多かった、パンクという音楽ジャンルにおける政治性、あるいは反権力・反体制の思想について。言うまでもなく、政治思想や反体制・反権力を前面に打ち出したパンクバンドは無数にいる。
今回ステージで名前の挙がったThe Clashもその代表格である。ただ一方で、政治性を切り離したパンクバンドも無数にいる。たとえば、パンクのレジェンドとも言えるRamonesは、The Clashなどと比べれば、政治的主張をバンドの中心に据えた曲は多くない。
Hi-STANDARDというバンドは、パンク、またはそのサブジャンルであるハードコアという音楽が内包する激しさ、速さ、重さはそのままに、聴き心地の良いメロディを加え、さらに政治的主張を前面に押し出さなかったことで、幅広い支持を獲得したバンドだ。
この政治性を前面に出さないスタイルは、Hi-STANDARDだけではなく、パンクが勃興した1970年代後半〜1980年代を経て、90年代に入ってからは世界中のバンドで見られた現象でもある。なぜそうなったのか、ここでは詳細は省くが、パンクで歌われる政治性や思想性はその時々の時代背景と密接に関係しているので、ぜひ各々で調べてほしい。
では、Hi-STANDARDに演奏面以外でのパンク精神がないかといえば、ある。その象徴が、自らレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を運営し、独立した活動を続けていくDIY精神だ。
1995年のファーストアルバム『GROWING UP』と、1997年のセカンドアルバム『ANGRY FIST』は、メジャーレーベルのトイズファクトリーからリリースされているが、1999年にメジャーから独立。
冒頭で紹介した1999年のサードアルバム『MAKING THE ROAD』は、インディーズレーベルからのリリースで国内65万枚を売り上げたのだ。その功績はいまだ色褪せないし、パンクというジャンルを当時の若者たちに広めた功績は計り知れない。
ハイスタをきっかけにパンクの歴史を掘り下げる
メロディック・ハードコア(メロコア)の前にはハードコアがあり、ハードコアにもUSとUKがあり、USの中にはLAやDCやボストンもあり、その前にはSex PistolsをはじめとしたUKの77パンクがあり、またアメリカにはCBGBを中心としたパンクの歴史がある。Hi-STANDARDをきっかけに、パンクの歴史を掘り下げるようになったファンもきっと大勢いるだろう。
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筆者は「PIZZA OF DEATH RECORDS」をきっかけにレーベルという概念を知り、SST RecordsやDischord Recordsを掘るようになったし、パンクは本来ローカルなものだからと東京のパンクシーンを知りたくてPOGO 77 RECORDSが主催するライブに通ったりした。
ちなみに、件の発言のあった翌日は、江ノ島のOPPA-LAで開催されていた、大貫憲章(1980年にThe Clashのイギリスツアーに同行取材するなど、日本にパンクを広めた第一人者)が主宰するDJイベント「LONDON NITE」に行っていて、その帰りの電車の中で、編集者からこの原稿のオファーを受けた。
90年代は、まだ残っている……。
付記:今回のことをきっかけに、政治的で反体制的なパンクを浴びたくなった方へ、入門編となりそうな5曲を紹介します。
The Clash 「Tommy Gun」
https://www.youtube.com/watch?v=bFHEuKkTa5k
せっかく本文で取り上げたので、ぜひ曲も聴いてほしい。1978年リリース。歌詞の概要は先述の通り。The Clashはプロテストソングの宝庫。曲と合わせて「Rock Against Racism」を扱ったドキュメンタリー映画『白い暴動』も必見。
NOFX 「The Decline」
https://www.youtube.com/watch?v=qnFVMkTWaBw
Hi-STANDARDの海外版をリリースするレーベル「Fat Wreck Chords」を主宰するFat Mikeのバンド・NOFXが1999年にリリースした18分に及ぶ大作。政治、法律、銃や薬物、大衆心理に至るまで、アメリカ社会の絶望的な状況を描く。一方で「政府を殺せ」と歌う46秒の曲「Murder The Government」も必聴。
Dead Kennedys「Holiday in Cambodia」
https://www.youtube.com/watch?v=v0Uc6ZWDF3c
バンド名からして皮肉しかないカリフォルニアのハードコアバンド・Dead Kennedysによる1980年リリースの曲。共産主義者で独裁者のポル・ポト政権下の苛烈なカンボジアを題材にしながら、恵まれた環境で暮らしつつ社会派を気取るアメリカの若者や知識層を痛烈に風刺した曲。Dead Kennedysは「Nazi Punks Fuck Off」も必聴。
Discharge「Never Again」
https://www.youtube.com/watch?v=oVTI_5P2040
UKのハードコアバンド・Dischargeの1981年リリースの名曲。「二度と戦争するな」のメッセージと激しいDビートは徹頭徹尾ハードコア。反ファシズム作品で知られるドイツのフォトモンタージュ作家、ジョン・ハートフィールドによるモンタージュを用いたジャケットも名作。Dischargeの初期は全曲必聴だが、1986年のアルバム「Grave New World」は演奏から歌唱まで思いっきりメタルになっているので注意が必要。
The Rebel Riot 「One Day」
https://www.youtube.com/watch?v=3ODKj6E-L5E
パンクスは世界中にいる。ローカルにいる。2007年にミャンマーで結成されたThe Rebel Riotはバンドであり共同体。ミュージックビデオから伝わってくるのは現在進行形の命懸けのパンク。軍事政権による圧政で緊迫の度合が増す状況の中、権力に屈さず、当局の目をかいくぐり制作されたアルバムは必携。
取材・文/おぐらりゅうじ

