日本で薄れた摩擦が、韓国で強く表れた
2026年第1四半期の韓国の観光収入は増えたが、外国人1人当たりの支出は2019年を下回った。免税店の客単価も大きく落ちている。
客は戻ったが、団体客が免税店で高級品を大量に買う古い姿は戻っていない。金は皮膚科、薬局、化粧品店、百貨店、飲食店へ流れている。韓国が稼いでいるのは、爆買いより美容と体験への支出である。
ところが、中国人観光客が増えた韓国の街では、歓迎とは正反対の動きが広がった。
The Korea Timesによると、明洞周辺の反中集会は2022年の20件、2023年の15件、2024年の13件から、2025年には65件へ急増した。中国人観光客が最も集まる場所が、そのまま反中運動の舞台になったのである。
私は、中国人観光客が急減した日本の観光地で、混雑と騒がしさが減ったと感じた。韓国では逆のことが起きた。日本から移った人の波が、明洞や聖水洞へ押し寄せた。日本で薄れた摩擦が、韓国で強く表れたのである。
観光客が一気に増えれば、街の歩き方も店の空気も変わる。住民は混雑や騒音を毎日受け止める一方、利益を得るのは一部の店や企業である。
負担する人と稼ぐ人が違えば、不満は国籍へ向かいやすい。そこへ政治が入り込めば、生活上のいら立ちは、たちまち排外運動へ変わる。
明洞で中国語が飛び交い、団体客が通りを埋める
だが、韓国の反中感情を中国人観光客のマナーだけで説明するのは間違いだ。
韓国を代表する全国紙の一つである京郷新聞が紹介した2026年の世論調査では、中国に好感を持つ人は21%、好感を持たない人は72%だった。18歳から29歳では非好感が86%、30代でも81%に達した。
韓国の若者は、中国に強い不信を持っている。これは観光客が増えて突然生まれた感情ではない。背景には、中国の権威主義への反発、THAAD配備をめぐる経済報復の記憶、不動産購入や健康保険をめぐる不公平感がある。
さらに韓国の保守政治と右派YouTubeが、中国による選挙介入説を広げた。観光客のマナー問題は入口にすぎない。火種は韓国社会の中に以前からあった。
中国人観光客の急増は、その火種に顔と場所を与えた。明洞で中国語が飛び交い、団体客が通りを埋める。中国政府や制度への怒りが、目の前の旅行者へ向かう。
中国人観光客が反中感情を作ったのではない。すでにあった反中感情を、街頭へ引きずり出したのである。
その矛先は、普通の旅行者にも向かった。韓国の民間ニュース通信社「Newsis」は、明洞の反中デモを微博で見て、不安を抱えながら韓国へ来た中国人旅行者の声を伝えている。韓国で働く中国人学生は、市民から「なぜ韓国に来たのか」と絡まれたと話した。
ソウルの聖水洞では、「中国人客お断り」を掲げた店が問題になった。財布は歓迎するが、人間は拒む。韓国社会に生まれたのは、このしんどいねじれである。

