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セミの命はなぜ「七日」と思われてきたのか――日本文化と近代教育から読み解く

セミの命はなぜ「七日」と思われてきたのか――日本文化と近代教育から読み解く

隠れたセミの「したたかさ」――薄い食事を命に変える、体内の同居者たち

Credit:Canva

セミの成虫は樹木から、幼虫は根から、植物の道管液を吸って生きています。

道管液とは、根から吸い上げられた水分や無機養分が流れる管の液です。

人間の感覚でいえば、甘い樹液というより、ほとんど水に近いものです。

産総研と琉球大学の発表でも、道管液はわずかなアミノ酸や糖を含むのみで、栄養的にきわめて乏しい食物だと説明されています。

これは、セミという昆虫の不思議さを考えるうえで、とても重要です。

なぜセミは、そんな乏しい栄養で、力強く鳴き、飛び立てるのでしょうか。

その秘密の一つが、体内の共生微生物です。

セミの体内には、「菌細胞塊(バクテリオーム)」と呼ばれる共生器官があります。

そこには、セミ自身では作りにくい栄養を補う微生物が住んでいます。

たとえばサルシアと呼ばれる共生細菌は必須アミノ酸の合成を、ホジキニアと呼ばれる共生細菌は、いくつかの必須アミノ酸に加えてビタミンの合成を担っています。

これらの助けによって、セミは栄養の乏しい道管液だけでも生きられると考えられてきました。

セミの食事があまりに貧しいため、その不足分を体内の微生物に頼っていたのです。

木の汁を吸っているように見えるセミは、実際には、体内の微生物と共同で栄養を完成させていたのです。

この仕組みだけでも十分に驚くべきことです。

けれど、日本の身近なセミでは、さらに奇妙なことが起きていました。

2018年、産総研、琉球大学、米国モンタナ大学などの研究チームは、日本産セミ類の内部共生系を調べました。

その結果、一部の種では従来どおりサルシアとホジキニアという二種類の共生細菌が見つかりました。

ところが、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシを含む多くの種では、サルシアは持っている一方でホジキニアは検出されず、代わりに酵母のような形をした細胞内共生真菌が見つかったのです。

真菌とは、カビやキノコの仲間を含む生物群です。

研究チームは、日本産セミの進化の過程で、ホジキニアから共生真菌への置き換わりが、少なくとも複数回、独立に起こったと推定しています。

そして置き換わった真菌が、もともとホジキニアが担っていたと考えられる必須アミノ酸やビタミンの合成能力を持つことも確認されました。

さらに驚くべきことに、これらの真菌のDNAを分析したところ、冬虫夏草の仲間(セミに寄生する菌の系統)にきわめて近いことがわかりました。

冬虫夏草という言葉には、虫を殺してそこからキノコが生える、どこか不気味な印象があります。

ところが日本の一部のセミの体内では、そのセミ寄生性の冬虫夏草類に近縁な菌が、セミを殺す側ではなく、セミを生かす側に回っていました。

研究チームは、弱毒化したセミ寄生性の冬虫夏草類が慢性的な感染を確立し、宿主を殺して胞子を作るかわりに、卵へと受け渡されるようになり、細胞内共生細菌の働きを補うようになったのではないか、という仮説を提唱しています。

もしそうなら、セミは「かつて敵だったもの」を、進化の時間の中で、体内の栄養係へと変えてしまった昆虫だと言えるでしょう。

人間でいえば、命を奪うはずの病原菌が、いつのまにか体内で栄養を作る役割に変わっていた、というようなものです。

これは、七日説が描いてきたセミ像とは、かなり違います。

七日説の中のセミは、長い地中生活の末に、地上で短く燃え尽きる虫でした。

けれど実際のセミは、栄養の乏しい液を吸い、それを微生物との共同作業で体に変え、さらにその共生相手さえ、進化の中で置き換えてきた虫です。

弱々しく短命なだけの存在ではなく、むしろ、きわめて貧しい食事環境を、複雑な共生の仕組みで乗り越えてきた存在なのです。

一方で、セミの体を利用する側の生きものも存在しました。

ヒグラシが綿毛をまとう頃に

ヒグラシが綿毛をまとう頃に
ヒグラシが綿毛をまとう頃に / Credit:Canva

夏の森で、ヒグラシの腹に、白い綿毛のようなものが付いていることがあります。

ゴミでも、カビでも、卵の塊でもありません。

それは、セミヤドリガという小さなガの幼虫です。

千葉県立中央博物館の解説によると、セミヤドリガは幼虫がセミに寄生するガで、寄生する相手はほとんどがヒグラシとされます。

幼虫はセミの体の上で体液を吸って成長し、終齢の幼虫になると、体の表面から白いロウ状の物質を分泌し、純白の綿毛に覆われたような姿になります。

この白さは、セミの体の上ではよく目立ちます。

ヒグラシの薄暗い褐色や緑がかった体に、真っ白な塊が付いているのですから、人間の目にもすぐわかります。

もっとも、セミヤドリガは、宿主のセミをただちに殺してしまうタイプの寄生者ではありません。

確かに、体液を吸われ、白い幼虫を背負い、余分な重さを抱えることは、短い地上生活の中で何らかの不利になりうるでしょう。

けれど、セミの一生そのものを断ち切るわけではないのです。

一方で、セミヤドリガの側には、セミよりもはるかに短い時間しか残されていません。

この蛾の幼虫は、宿主であるセミの寿命がさほど長くないため、育つ期間もおのずと短く区切られています。

しかもセミから離れ羽化した成虫は口が退化していて、餌をとることができないのです。

ですからこの蛾は、幼虫時代にセミから得た栄養だけを頼りに、次の世代を残し、そして数日ほどで一生を終えます。

はかない夏の虫というイメージ通りに生きて死ぬ虫は、セミではなく、そのセミにひそかに取り憑いていた蛾のほうだったわけです。

一方でセミたちは、薄い樹液を体の内側に微生物という同居者と共に利用するしたたかさを持ち、野外でも一カ月生きている事例も確認されています。

また夏の日にセミたちの声が聞こえてきたら、その声が今度は少しだけ、違って聞こえてくるかもしれません。

参考文献

  1. 堺市立中央図書館.「セミの成虫の寿命は何年か。カラー自然シリーズ『アブラゼミ』では1週間から2週間、カラーアルバム『アブラゼミ』では2〜3週間とある。」国立国会図書館レファレンス協同データベース,管理番号:堺-2021-075,事例作成日2019年7月26日,更新日2021年8月27日,2026年7月29日閲覧。
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    ※植松蒼さんによる笠岡市内でのマーキング再捕獲調査を紹介した資料。資料内では山陽新聞2019年6月19日記事への言及があります。
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  17. 七尾純.『しぜんたんけん(13)セミ』国土社,1986年。
    ※網を張った飼育条件で30日以上生存する例の出典として、国立国会図書館レファレンス協同データベース内で引用されています。
  18. 七尾純.『アブラゼミ』カラー自然シリーズ4,偕成社,1977年。
    ※児童書における「1週間から2週間」記述の確認資料として、国立国会図書館レファレンス協同データベース内で引用されています。
  19. 佐藤有恒 写真,橋本洽二 文.『アブラゼミ:ニイニイゼミ』カラーアルバム 昆虫,誠文堂新光社,1994年。
    ※児童書における「2〜3週間」記述の確認資料として、国立国会図書館レファレンス協同データベース内で引用されています。

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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