ゴールを守るだけじゃない。主将としてチームを導く
大きな声を出して味方を鼓舞したり指示を出したりしながら敵の前ではゴール前の壁となるゴーリーは最後の砦だ。自分が止めなければ点が入る。世界の強豪国と対戦すれば、セーブできる本数は限られる。だからこそ、メンタルの保ち方が問われる。
「全部を止めるのは無理なんです。これは入ってしまうシュートで、これは止めるべきシュート。その見極めをどれだけできるか。全部自分の責任だと思いすぎると苦しくなるので、どこを改善するかが大事になります」
日本の強みは、個の強さだけではなく、チームの規律にあるという。
「アメリカやカナダ、オーストラリアといった強いチームは個の力がすごいんですけど、日本は攻守において連携することが強みです」
その「規律」は、藤田選手自身が慶應義塾大学のラクロス部で学んだことが大きいという。
「私は帰国子女で高校までブラジルに住んでいました。その影響もあって時間を守るとか、基本的なことに対する感覚が日本とは全然違っていたんです」
大学のラクロス部に入った時もそのことで同期や先輩に何度も怒られたという。
「最初に教わったのは『時間を守ったり忘れ物をしないとか、基本的なことができなければラクロスはできないよ』ということでした。私のことを根気よく何度も怒って教えてくれたから、今はそれが大事だと理解できています。ちょっと抜けちゃう時もあるんですけど(笑)。でもその経験がなければ多分日本代表にもなれていないし、社会人としてもやっていけなかったと思います」
その経験は、今の日本代表での声かけにも生きている。
練習前のストレッチでは、リラックスしながらチームメイトと積極的に会話をする「今は主将として、規律を守ってみんなで一つのチームになろうということを言っている立場です。まさか自分が、という感じなんですけど(笑)。でも、大学時代の学びはすごく生きている気がします」
大切にしているのは、試合に出る選手だけのチームにしないこと。
「一番大事にしているのは、どんな立場であっても、最後に自分がフィールドに立っていたとしても、立っていなかったとしても、『自分がこのチームを勝たせた』と思ってほしいということです」
日本代表には、世界大会を何度も経験している選手もいれば、初めて代表に入る高校生もいる。世代も経験も違う。だからこそ、藤田選手は「同じ方向を向くこと」と「同じ方法を強制しないこと」を分けて考えている。
「目指す場所は同じでも、個性を活かしたプレーをしてほしいです。個のスタイルを尊重するブラジルの経験が大きいのかもしれません」
自分が進むだけでなく、次の挑戦者への道をつくる
円陣を組む日本代表の選手たち。藤田選手は、日本のチームがもっと世界で戦えるための未来を見据える2026年、女子ラクロス世界選手権が東京で開催され、2028年のロサンゼルスオリンピックでは6人制のラクロスが120年ぶりに実施される。
藤田選手が2028年のオリンピックに関わるかどうかはまだ分からない。それでも、目線の先には日本ラクロスの未来がある。世界の強豪国との差も感じている。
「アメリカ、カナダ、オーストラリア、イングランドは本当に強いです。小さい頃からラクロスをやっている選手が多い。日本だと大学から始める人が多いので、そこに追いつくのは本当に大変なんです」
だからこそ、競技の普及にも思いを込める。
「自分がもっと早くやっていたらよかったと思ったような気持ちを、次の世代にはさせたくないんです。日本でラクロスが普及して、子どもたちが将来ラクロス選手になりたいと思えるようになったらいいなと思います」
仕事も続け競技も続ける。諦める理由を探すのではなく、続ける方法を探す。
藤田選手の挑戦は、特別なアスリートだけのものではない。働きながら、夢を持つ人、複数の役割の間で迷う人に、「両方あるから見える景色もある」と教えてくれる。
text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
photo by Shunichiro Kai
