妻が触るなと言った段ボール箱
新居は今より狭い1LDKで、家賃を下げるための引っ越しでした。妻は仕事で疲れきっていて、休日も片付けに手が回っていません。俺が代わりに片付けをしようと決めた土曜日、クローゼットの上段に、妻が普段から触るなと言っていた段ボール箱を見つけました。中身はぬいぐるみやフィギュア。学生時代の趣味の残り物のように見えました。フリマアプリで写真を撮って出品すると、いくつかに「いいね」が付きました。「片付けたよ、いくらか稼げそう」。帰ってきた妻に画面を見せた時、俺は褒められると思っていました。
妻の目が硬くなった瞬間
「これ、私の大事なコレクションだよ」。妻の声に、俺は「使ってないだろ、もう」と返しました。何気ない反論のつもりでした。妻はクローゼットの空白を確かめてから、俺のスマホで出品リストを最初から1つずつ見返しました。しばらくして、スマホをテーブルに裏返して置くと、俺の横に腰を下ろしました。「1つ1つ思い出があるの」。俺の目には使わなくなったグッズにしか映らなかった1つ1つが、妻には10年分の思い出だったのだと、そこでようやく気付きました。
