「おうえんチケット」が繋ぐ社会との絆
現在は、「おうえんチケット」という仕組みも広がっている。
1枚300円のチケットをネットで購入すると、それがそのまま、付き添い家族の300円券になる仕組みだ。家族は、顔も知らない応援者が寄付してくれたこのチケットを利用して、割引価格で食事を購入でき、経済的サポートを受けられる。
「医療が子どもの命を支えるのならば、社会は親の心を支えられる」。青木さん夫妻のこの思いは、いま、多くの人の共感を呼んでいる。
夫妻のもとには、実際にスープを手にした家族から切実な声が寄せられている。
《付き添いは思ったよりも大変で、中でも1番はご飯がないことでした。コンビニも閉まってしまい食べられないことも多々ありました》
《どれも美味しく、温かく私にとって本当に救いでした。日曜日の夜に食べ損ねても『明日のお昼にはfufufuスープさんが来る!』と言い聞かせて頑張れました》
このチケットは、単なる金銭的補助ではない。病院という閉鎖された空間にいる家族にとって、外の世界に「自分たちを想ってくれている人がいる」と感じられる、社会との大切な接点になっている。
『応援している人は実はたくさんいるんだよ』
インタビューの間、青木さんは何度も「一馬との経験を活かしたい」と語った。息子の死を「乗り越えた」なんて言葉は使えない。悲しみが消えたわけでも、後悔がなくなったわけでもない。それでも、一馬くんと過ごした時間に意味を見いだし、誰かのために活かし続けること。それが青木さん自身にとってのグリーフケアであり、生きる理由になっている。
インタビューの最後、「いま、付き添い家族の人たちに向けてメッセージを送るとしたら?」と尋ねると、青木さんは静かに、かつての自分と重なる家族たちへ言葉を紡いだ。
「いま、孤独を感じていると思います。私の場合、友達に相談ができなくなったんですよね。相談したところで、何て言ったらいいかわからないだろうし、困らせてしまうだけだろうなって思うんです」
親に支援を求めることができても、心の支えにまでなるのは難しいのが現状だ。結局、夫婦だけしか相談する人がいない。しかし、どちらかが仕事をしていれば、もう一人は病院で一人きりになる。同じ病棟のパパ・ママたちと支え合うことはあっても、日常からは切り離され、心をすり減らしていく。そんな状況を知っているからこそ、青木さんは言葉を続ける。
「だけど、『応援している人は実はたくさんいるんだよ』っていうのを、みんなに知ってもらいたい。大変だと思うけれど、少しは自分のことも労わる時間を作ってほしい。頑張り過ぎないでほしい。『子どもがこんなに大変なのだから、苦しいのを我慢するのは当たり前』って、自分を責めがち。でも、自分を大切にしてほしい。そんな気持ちが伝えられたらって思います」
群馬県立小児医療センターの前に停まるキッチンカーから、優しい湯気が立ち上る。その1杯のスープには、4歳で旅立った一人の少年と、その少年から「生き方」を教わった親の願いが、静かに息づいている。一馬くんが遺した「生きる」ことへの問いは、一杯のスープとなり、今日も誰かの心を温め続けている。
取材・文/加賀直樹
(写真/青木佑太さん提供)

