猛暑が続くなか、各地でゲリラ雷雨が相次いでいる。遠くで雷鳴が聞こえているうちは、どこか現実味のないものに感じられるかもしれない。だが、雷は突然、自分の身に降りかかることがある。
「自分に雷が落ちるとは思わなかった」。そう語るのは、留学エージェント「スクールウィズ」の代表取締役・太田英基さん(41)だ。太田さんは、友人らと登山中に落雷に遭い、一時、全身を動かせなくなったという。雷に打たれた瞬間の感覚や、山中で動けなくなった恐怖、事故後に変化した雷への意識について話を聞いた。
「視界が真っ白に」登山者を襲った落雷の瞬間
民間気象会社ウェザーニュースは、2026年7~9月のゲリラ雷雨の発生回数が、全国で約11万回に上ると予想。昨年の約8万8000回を上回り、過去5年の平均よりも多くなる見込みだという。
遠くで雷鳴が聞こえているうちは、どこか現実味のないものに感じられるかもしれない。だが、雷は「近づいてから避ければいい」ものではない。気象庁によると、グラウンドやゴルフ場、砂浜などの開けた場所や、山頂、尾根といった高い場所では、人体に直接落雷することがあり、直撃を受けた場合の死亡率は約8割に上る。
太田さんが落雷に遭ったのは、2021年6月のこと。友人らと5人で、埼玉県秩父郡小鹿野町の二子山を登っていたときだった。
「登山を始めたのは2018年頃です。落雷に遭った2021年当時は、北アルプスの難関ルートに挑戦するためのトレーニングとして、二子山を訪れていたんです。午前中は天気予報どおりに晴れていましたが、山頂の手前あたりから雲行きが怪しくなり、到着した頃にはゲリラ豪雨が近づいているのが分かりました」(太田さん、以下同)
二子山は、東岳と西岳からなる石灰岩の岩峰で、最高地点は標高約1166メートル。ロッククライミングの名所としても知られ、太田さんらが歩いたルートでは、山頂付近には道幅の狭い岩場が長く続く。前に進んでも引き返しても、山頂部を抜けるまでには30分以上かかる状況だったという。
「急いで下山しようとしましたが、間もなく土砂降りになり、今度は雷が鳴り始めました。山頂に着いてから15分ほどで、激しい雷雨に見舞われました」
その直後、強烈な光と轟音が太田さんを襲った。
「打たれた瞬間、カメラのフラッシュを一斉にたかれたように、視界が真っ白になりました。『ドゴーン』という音とともに全身の感覚がなくなったんです」
意識はあり、目も見えていたが、首と右手の指先以外は、まったく動かせなかったという。
「動かそうとしても、自分の意思が身体に届かないような感覚でした。寝ている間に腕を身体の下に挟んでしまい、起きたときに腕の感覚がなくなって、力も入らなくなることがあるじゃないですか。あれが一瞬で全身に起きたような感覚です」
「このまま山で一晩過ごせば死ぬかもしれない」
雷に打たれたのは太田さんだけではない。ともに登っていた4人も、山頂の岩場に倒れ込んだ。
「20分ほどすると、僕を含めた4人は立てるようになりました。ただ、1人だけなかなか立ち上がれなかったんです。もしこのまま歩けなければ、彼は今後、車椅子で生活することになるのではないか。その場合、僕らも一生、責任を負わなければならないのではないかと、本気で考えました。
その時点で、時間は夕方に差しかかっていました。誰かが助けを呼びに行くのか、それとも全員で山に残るのか。僕らは全身びしょ濡れで、十分な着替えも持っていませんでした。このまま山で一晩過ごせば、全員が低体温症で死んでしまうのではないかという恐怖もありました」
そうした最悪の事態が頭をよぎるなか、さらに5~10分ほど経つと、最後まで動けなかった1人も、ようやく立ち上がれるまでに回復した。しかし、その後も激しい雷雨が続いていたため、5人は天候が落ち着くまで約30分間その場にとどまった。自力で下山を始めたのは、落雷から約1時間後だった。
「全身の感覚が戻ると、今度はひどい筋肉痛のような痛みが出てきました。身体に電撃を受けた影響なのか、倒れたときに身体を打ったからなのかは分かりません。ただ、全身が痛く、思うようには動けませんでした。もともと難しい登山ルートで、足元も悪くなっていたので、下山するまでは本当に怖かったです」
下山後、医療機関を受診したのは5人のうち1人だけだった。太田さんを含むほかの4人は受診せず、体調の経過を見たという。
「結果的に、大きなケガや後遺症はありませんでした。ただ、全員が無事に下山できたのは、本当に運がよかったとしか言いようがありません」
※落雷による電撃を受けた可能性がある場合、心臓や神経、聴覚などに異常が生じていることがあるため、一般には救助を要請し、医療機関で評価を受けることが推奨されます。

