見つけた誰もいないシート、置き荷物には気づいていた
うちも、この街の花火大会は毎年楽しみにしていました。仕事の都合で家を出るのが遅くなり、駅から会場に着いたときには、目に入る通路脇はほとんど埋まっていました。夫と、幼稚園の息子と、少しずつ人の間を縫って歩きます。息子は「まだ見えない、まだ見えない」と繰り返します。
開始まで1時間を切ろうとしていました。今からだと入れる場所は残っていないかもしれない、と思ったころ、奥のブロックに2人用の小さめなシートを見つけました。上にはトートバッグと折り畳まれた上着、未開封のペットボトル。人の姿はありません。「戻ってくるんじゃないか」。夫がすぐに私の袖を引きました。
軽い気持ちで、2人用のシートを畳んだ
「ずっと誰もいないかもしれないし、少し端に動かすだけだから」。私はそう夫に返しました。夫は返事をせずに、息子に帽子をかぶせ直しています。トートバッグと上着とペットボトルを、通路のふちに寄せました。2人用のシートを畳んで、私たちの人用のシートを、その場所に敷きました。息子は「見える見える」と声を上げました。私はしばらくは、周りを見ないようにしていました。
座ってしばらくして、浴衣姿の女性が私たちの前に立ちました。手には、水色のペットボトルと同じ色のパスケースが下がっています。「あの、ここ、私が取っていた場所なんですが」。私はとっさに「誰もいなかったから」「空いていたと思ったんです」と重ねました。周りが見ている気配で、非を認めるのは無理でした。
