息子の声が、私の言い訳の続きを止めました
女性はそれから、荷物のことに触れました。「荷物も置いてありましたよね。勝手に動かさないでください」。私は「気づかなかった」と答えました。声だけは強くしました。そのとき、息子が私を見上げてつぶやきました。「さっきバッグをどかしてたよね」。夫の目がこちらを向くのが分かりました。私はうつむいて、シートの縁を見つめました。
近くに来た係員に、女性は事情を説明しています。会場のルール、シート、荷物。私に落ち度があると告げられたわけではないのに、頭ではもう、席を立たなければいけないと分かっていました。私は女性たちのシートを広げ、女性のトートバッグと上着とペットボトルを、元の場所に戻しました。「勝手に触ってすみませんでした」。それだけを口にして、私たちは通路の後ろへ下がりました。
そして...
息子は花火が始まるころにはすっかり寝てしまいました。夫は最後まで隣に座ってくれましたが、多くを話しませんでした。人の場所を横取りしたのは、持ち主が戻ってこないと思ったからではなく、戻ってきても押し切れると考えたからです。他人が3時間かけて用意したものを、私は都合よく空きだと呼び替えていました。次からは、遅れたら遅れた分の景色を受け入れます。あの女性がまっすぐこちらを見る目、そして息子がまっすぐ私を見上げる顔を、私はしばらく忘れないと思います。
(30代女性・パート勤務)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
