『M-1グランプリ』で2023、2024年連覇という史上初の快挙を果たした令和ロマン・松井ケムリ。昨年第一子が誕生した彼は、複数の子ども向け番組に関わるなど、“パパ芸人”としての道を歩み始めている。このたび、初めて手がけた絵本『ちがうちがう』(集英社)が発売された。
今回はM-1チャンピオンとしても、パパ芸人としても先輩であるNON STYLE石田明と対談。「子どもを相手にした笑い」について語った前編に引き続き、後編ではパパになったことで変化した芸人としてのスタンス、子育ての悩みについて語り合った。(前後編の後編)
ネットの正解も、直接会う人のアドバイスも無視していい
──せっかくの機会なので、パパとして先輩である石田さんから、ケムリさんにアドバイスはありますか?
石田明(以下、石田) うーん、何か言えることがあるとすれば、ネットの正解は無視していい。
ケムリ(以下、松井ケムリ) え、本当ですか?
石田 「こうした方がいい」なんて人の数だけあるんやから。たとえば、最近は「怒らん方がいい」とよく言われるでしょう。「怒ると自信のない子に育ってしまう」とか。
ケムリ 「失敗を恐れる子になる」とか言われますよね。
石田 でも、怒ることで守れている命もあるわけで。ネットって怒った親の自己嫌悪は流れてきても、怒った結果大事に至らなかったことはあまり書かれていなかったりする。世の中にはいろんなタイプの子がいて、のびのびさせてあげた方がいい子もいれば、叱ってあげた方がいい子もいると思う。それを見極めることが大事なんよな。
ケムリ 確かに。石田さんは、ネットではなく直接会った人の意見だったら大事にする部分もありますか?
石田 いや、そうでもないな。お笑いもやけど、尊敬している人から言われても自分に当てはまらんこともあるやん?
ケムリ たくさんあります。
石田 だから直接会った人の意見でも、一概には受け入れない。うちの子は三姉妹で上は双子だけど、三人それぞれ違う接し方してるし。だから、ほんまに正解はないんやと思うよ。
ケムリ うちの子はようやく1歳ですけど、周りを見ると成長度合いも性格も子どもによって全然違います。特に小さいうちは発達具合をかなり気にしちゃうけど、そこも気にしすぎなくていいってことですよね。
石田 うちの上の双子はしゃべり出すのがかなり遅かったけど、おむつからパンツに変えるとき二人ともほとんど失敗せんかった。下の子はしゃべるのは早かったけど、おむつはなかなか外れんかった。そうやって姉妹でも全然違う。
ケムリ なるほど。子どもを持つ芸人と話していて感じるのは、同年代の子どもと発達スピードが違っても、みんなあまり焦っていないんですよ。芸人って人と違うことがいいという考えの人が多いし、何かができないこともいいことだと思ってるから。それは芸人のいいところかもしれないです。
石田 芸人は子どもどころか、自分がいまだに仕上がってないヤツがいっぱいおるからな(笑)。
石田家が子どもに配布する「休んでいいチケット」
──石田さんはNSC(吉本総合芸能学院、吉本の養成所)の講師として、人にアドバイスをする側でもありますが……。
石田 僕のアドバイスも、受け入れなくていいんですよ。
ケムリ えっ、いいんですか。
石田 僕はお笑いに関してはあくまで「統計的にはこっちの方が笑いが多い」といったことしか話してないんです。僕はお笑いを占いみたいに統計で見てる唯一の芸人やから(笑)。僕のアドバイスは「これが当てはまるケースが多いよ」と言ってるだけ。だから、ある程度バランスをとった方がいい芸人にとっては効果を発揮するかもしれんけど。
ケムリ なるほど。ある程度までいけるための統計学的なアドバイス。
石田 でも、突き抜けた方がいい人にはあまり言わないです。
ケムリ 突き抜けるって、統計から外れるってことですもんね。
──そういう統計学的な考え方を子育てに活用されることもありますか?
石田 お笑いに関しては、自分の人生だから情報収集をしているわけで。子どもたちに関してももちろんある程度情報は集めるけど、あまりやりすぎないようにしていますね。習いごとも、子どもが興味を持ったら調べる。今はダンスやりたい子、絵を描きたい子がいるので、行けるスクールとかを調べてます。最初に親のエゴでやらせたプールは全員辞めましたけど、それでよくて。
ケムリ 結局自分がやりたいことじゃないと続かないんですよね。僕は、さっき石田さんがおっしゃったことと矛盾するような話をネットとか本でいっぱい調べて、結局石田さんと同じ結論に辿り着きました。
やっぱり子どもが熱中する力を育てることが大事で、そのためには押し付けるのはよくないっぽい。子ども自身が選んだ、好きになったことを応援する方が子ども自身も熱中しやすいらしい。
石田 そうやと思う。あと、休むことも大事で。うちは奥さんと相談して、子どもたちに月に2回だけ学校を休めるチケットを渡してるんですよ。
ケムリ 何ですか、それ?
石田 気分が乗らない日、嫌なことがあった次の日は使っていい。その日僕が空いてたら「とーちゃんとどこかに行きたい」とかでも全然いい。
ケムリ へー! それは全然使わない月もあるんですか?
石田 ありますあります。
ケムリ 繰越はしてもいいんですか?
石田 貯めて連休に、とかはできない(笑)。ただ、実際には休まなくても、持っているだけでちょっと気が楽になるみたいなんですよ。
ケムリ それはすごいな。

