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岩井圭也さん(作家)が山崎エマさん(ドキュメンタリー監督)に会いに行く

岩井圭也さん(作家)が山崎エマさん(ドキュメンタリー監督)に会いに行く

内面を書ける小説と、解釈の余地を残すドキュメンタリー

岩井 すごく面白いです。事実の捉え方にはいろいろあるということですね。先ほど述べたように僕は「事実の重み」に敬意を払いながら、それをどう超えていくかをフィクションの書き手として日々考えていますが、その「アンサー」とまでは言えないかもしれないけれど、現時点での到達点が、今回の小説だと思っています。

 書き終えてあらためて思うのは、フィクションの良さは、誰の話でもないからこそ、誰の話にもなれるところ。私の人生でもこういうことがあったな、という普遍性を持ち得るのではないかということです。それからもう一つが、個人の内面を書けるところ。

山崎 そうですね。うらやましいですね。

岩井 内面を書けるってめちゃくちゃ有利なことだと思っていて。言葉でイエスと言っていても本心はノーということはよくあるわけで、そういう人間の「本心」を描写し切れるのが小説の強みだなと思います。
 一方で、そこまで描写できないことによって多様な読みや解釈の余地を残す良さが、ドキュメンタリーにはありますね。

山崎 それを今回、本(『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』)を書いて痛感しました。映像ではあえて曖昧にしてはっきりさせなかった部分を、はっきりさせていく覚悟を持たなければならなかった。私の映画はナレーションがないので──ナレーションなしで作家性を込めたいからそういう映画を作っているんですが──、映像と言葉の違いもあったと思います。

岩井 この新書で映画の裏側もよくわかりましたが、山崎さんの人生も読めてよかったです。なぜドキュメンタリー監督になられたかとか。

山崎 私の原点は、「今日、学校でこういうことがあってね」と、何でもないことを親に面白可笑しく喋っていた子供の頃にあります。目の前で起きていることを、自分を通して伝えることが、昔から好きだったんですね。10代にモダンバレエをやっていたことも影響していると思います。何かを伝えたい、自分の視点で伝えたい。ただベースは実際に起きたことや目の前の課題に関心や興味が向いていて、高校生の頃に映像と出会って、これだ、と。

岩井 僕も小学4年生の頃から作家になりたいと思っていました。読んでいた雑誌のミステリー連載が終わっちゃったんです。もっと読みたいから、じゃあ、自分で書こうと思ったのが始まりで。

山崎 すごい!

岩井 でもその後、理系に進んで、長くエビデンスガチガチの世界にいたら、その反動のように小説を書き始めて、今に至るという感じですね。

「寝ても覚めてドキュメンタリー」の山崎さん、「趣味は小説」の岩井さんのこれから

岩井 そういう僕のような人間からすると、日本で生まれて公立小学校からインターナショナルスクールに進んで、ニューヨーク大学を出て就職して、日本に戻ってきて……という山崎さんのキャリアは特殊に感じますが、本に書かれている内容はすごく普遍的だった。新しい文化に出会ったとき、人は戸惑いながらどう馴染んでいくか、という誰しもが経験することが書いてあるので、誰もが楽しめる本だと思いました。

山崎 ありがとうございます。この本は、タイトルの「それでも」がポイントかなと思っています。私は日本に居心地の悪さを感じていた時期が長かったし、アメリカに行って、日本にはもう帰らないと思っていた時期もあったんです。
 それでもいろんな文化やシステムを比べられる環境にいたことで、日本の社会の強みや弱み、当たり前と思っていたことの価値に気づかされました。だからアメリカ人の夫との間に生まれた息子を、日本の公立小学校に通わせたいと思っています。すべて同意してもらえなくても、何か一つでも、気づきのある本になっていたら嬉しいですね。

岩井 ちなみに山崎さんはフィクションをやってみたいという気持ちはありますか? 実は僕はいま、ノンフィクションに取り組んでいるんです。ものすごく大変だけど、両方やることは自分の糧になると実感しているところです。

山崎 そうなんですか。それは楽しみですが、私は、フィクション的要素があったほうが伝わるテーマや人物に出会ったら、考えるかもしれませんね。最近はハイブリッドな作品も増えてきていますし、拒んでもいないけど求めてもいない、というのが正直なところです。
 もうね、私は寝ても覚めてもドキュメンタリーなんですよ。仕事も趣味も情熱もすべてドキュメンタリーで、最近、ドキュメンタリースクール「DDDD Film School」を仲間と立ち上げました。他者の考えや異なる文化を伝えるドキュメンタリーは、分断や無関心に対抗するツールになると信じています。

岩井 僕も似ています。趣味が小説なんですよ。他にありませんか? と聞かれて思いつくのは「子育て」か「家事」。それらは当たり前のことなので、いつも趣味は小説に落ち着くと。そんな生き方をしていますが、おっしゃるようにノンフィクションとフィクションの融合も進んでいるので新しい表現方法も模索したいですし、今日お話を伺って、狭い世界に閉じこもることなく、いろいろやっていきたいと思いました。

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