断る前に聞きたかったこと
その週のうちに、私は賃貸情報のサイトで近くの物件を眺めるようになっていました。家賃も間取りも、今の部屋より条件は落ちます。それでも、更新のたびに注文が増えていく暮らしを続ける自分が、うまく想像できませんでした。迷った末に、記入した更新の書類を持って母屋を訪ねることにしました。出ていくにしても住み続けるにしても、理由を聞いてからにしたかったのです。
「私、何かご迷惑をかけてますか」
玄関先でそう聞くと、大家さんは間を置いてから、居間に上がるように言いました。
そして...
居間の棚から、大家さんはファイルを出してきました。綴られていたのは、黒ずんだ壁の写真と、修繕の見積もりでした。3年前に1階の人が退去したあとの部屋だそうです。
「前の方のとき、私が何も言わなかったから」
換気扇も排水口も、便箋の注文は全部、この写真につながっていたのです。
「長く住んでほしい部屋にしか、言いません」
帰り際、私はその場で書類に署名して渡しました。物件のサイトを開くことは、それきりありませんでした。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
