「購入時よりも数千万円値上がりしているが、こんなことになるなんて想像すらしていなかった」。東京都江東区、豊洲。高層ビルが林立する湾岸エリアの一角に建つタワーマンション、「アーバンドックパークシティ豊洲」を見上げながら、40代前半の男性、田畑健太郎(仮名)はこう語った。田畑が同マンションを購入したのは取材から10年以上前。当時は70㎡超のファミリータイプの部屋は6000万〜7000万円程度で取引されていたという――外山尚之著『なぜ働いても家を買えないのか』の一部を抜粋、編集してお届けする。
家を購入し、住んでいるだけで1億円
「子供が小さかった頃、『ららぽーと』に近くて便利だからという理由で買った」と振り返る田畑だったが、思わぬ幸運に恵まれる。不動産相場の上昇に伴い、同マンションは1億円を大きく超える価格で取引されるようになったのだ。
10年以上にわたり住宅ローンの返済を続けているため、ローン残高は大きく減っている。市場価格からローンの残債を差し引いた「含み益」は、1億円を超える計算となる。宝くじに当たったようなものだと田畑は喜ぶ。
投資の世界では、1億円以上の資産を築いた人のことを「億り人(おくりびと)」と呼ぶネットスラングが存在する。
株式投資で1億円を達成するためには卓越した銘柄選定力や豊富な資金力など、人よりも抜きんでたものが必要だ。
しかし、湾岸エリアに限れば、田畑のような億り人は決して珍しくはない。むしろ、10年代にファミリータイプのタワマンを購入し、住み続けている人はほとんどが該当するといっても過言ではない。
家を購入し、住んでいるだけで1億円を超える資産を築くことができた人が数万人単位で誕生したのだ。
「タワマン億り人」が数万人
不動産情報会社マーキュリーがまとめたデータによると、2000年代前半に東京23区で分譲された新築タワマンの平均価格は5000万円台だったが、25年では1億7698万円と、20年で3倍超となった。
バブル崩壊後、日本の不動産市場では「マンションは新築分譲時の価格がピークで、経年とともに価値は下落する」という言説がまことしやかにささやかれており、実際、その通りの側面もあった。
しかし、新築価格の上昇につられる形で中古相場も押し上げられている。湾岸エリアでは、田畑のような億り人が続出することとなったのだ。

