思春期の少女たちが体験する戦争サバイバル
2025年にNHKで放送されたTVアニメ『cocoon ある夏の少女たちより』は、今日マチ子さんの漫画『cocoon』が原作です。元「スタジオジブリ」の舘野仁美さんがプロデューサーを務め、声優として伊藤万理華さん、満島ひかりさんらが参加しています。
太平洋戦争末期の沖縄における「学徒隊」をモチーフにしていますが、登場するのはどこにでもいそうな思春期の女の子たちです。誕生日を迎えた友達に何を渡すか迷っているような繊細な少女たちが、戦争という巨大な暴力の渦に巻き込まれていきます。
看護隊として動員された彼女たちは、ガマ(自然洞窟)に設けられた野戦病院で負傷兵の看護に努めます。しかし、敵軍が迫り、現地での解散を告げられるのでした。
逃げ延びようとする少女たちは敵軍の機銃掃射に遭いますが、流血の代わりに花びらが舞うという際立った演出がアニメ版では施されています。戦争とは真逆の美しさが、少女たちが味わった恐怖と痛みを伝えています。
今日マチ子さんは戦争マンガを執筆することに躊躇したそうですが、沖縄出身の編集者から「少女たちの視点なら描けるのでは」と背中を押されたそうです。沖縄の戦跡や資料館を丹念に取材し、作品として結実させています。
想像上の「繭」のなかに潜んでいた主人公のサンは、追い詰められた局面でどのような決断を下すのでしょうか。Amazon Prime VideoやU-NEXTなどで配信中です。

『この世界の片隅に』場面カット (C)2019こうの史代・コアミックス / 「この世界の片隅に」製作委員会
戦時中の「日常」描いたアニメ
1968年生まれ、広島市出身の漫画家・こうの史代さんの同名マンガを劇場アニメーション化したのは、片渕須直監督の『この世界の片隅に』(2016年)です。制作に7年の歳月を費やし、太平洋戦争時の庶民の暮らしを詳細に調べ上げ、克明に再現しています。日本国内だけで興収27億円のヒット作となりました。
物語中盤までは広島市の江波から呉市に嫁ぐ主人公すず(CV:のん)の日常生活が、とてもユーモラスに綴られています。しかし、戦局は次第に悪化し、食糧事情が厳しくなるだけでなく、すずは大切にしていたものを次々と失ってしまいます。
すずたち庶民を戦争の犠牲者として描くだけではありません。すずが暮らす呉市は軍需産業で栄えていたことにも触れています。呉市だけでなく、戦争によって景気がよくなると考えていた人たちは多く、新聞などの報道機関も戦争に協力していました。すずは自分たちも戦争を支える側にいた事実に気づき、慟哭することになります。
宮崎駿監督や高畑勲監督のもとで演出を学んだ片渕監督だけに、各キャラクターや街の様子が細やかに描かれています。また片渕監督は劇中に出てくる「楠公飯(なんこうめし)」を実際に作り、食べてみたそうです。庶民の暮らしぶりを丁寧に積み重ねていくことで、戦争の恐ろしさを見事に浮かび上がらせた作品だと言えるでしょう。
追加シーンを加えた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019年)も公開されています。『この世界の片隅に』はAmazon Prime VideoやU-NEXTで、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』はNetflixで配信中です。
かつては戦争を直接体験したおじいちゃんやおばあちゃんに戦時中の話を聞くことができましたが、今では戦争を知る世代は少なくなっています。もちろん「アニメーションで、戦争のリアルさを理解できるのか?」と訝(いぶか)しむ人もいるでしょう。それでも戦争を知らない若い世代が、戦争について考えるきっかけにはなるはずです。
戦争のことをまったく知らないでいることと、戦争について知ろうとすることには、大きな違いがあるのではないでしょうか。
