「闇バイト」も超高級マンションブームを後押し
野村不の松尾大作社長は「5億、10億という高額物件になると、抽選という従来の販売手法だとそぐわない場合もある。
企業としては『こんな物件を造りました』とPRしたい気もあるが、プライベートな住まいを公にしたくないというお客様の希望が多い」と事情を説明する。
こうした傾向は、東京に限った話ではない。24年に街びらきをしたJR大阪駅北側の大規模再開発「グラングリーン大阪」では、積水ハウスなどが開発したタワマンの最上階が1部屋40億円で販売されたことで話題になった。
一般への売り出し前に富裕層向けの説明会が開催され、多くの部屋が人々の目に触れることなく販売を終えている。
アジアの玄関口として再評価されている福岡でも25年、JR九州が開発する「MJR赤坂ゲートタワー」(福岡市)の上層階の325㎡の部屋がインナー販売により10億円で成約したことが明らかになっている。
富裕層がマンションを好むようになった背景には、格差の拡大や体感治安の悪化という社会の変化もある。
24年夏以降に首都圏を中心に発生した、「闇バイト」による連続強盗事件を受け、都心に店舗を構える不動産仲介事業者には防犯目的でのタワマンへの問い合わせが増えたという。
家族の安全を最優先にした場合、富を誇示するような豪邸よりも、匿名性が高いマンションの方がメリットは大きい。
「できれば毎年1棟は供給していきたい」
超富裕層向けの商品企画は、希少性を競い合う方向に移りつつある。富裕層向けの住宅を強みとする三菱地所は東京・半蔵門の駐日英国大使館に隣接した土地で超高級マンションを開発している。
1872年に明治政府と英国政府の間で結ばれた土地の賃借契約の整理に伴って売却された土地を入札で取得したという経緯があり、皇居を望む超一等地は「二度と市場に出てこない」と業界内でも評判だ。
同社の中島篤社長はこうした超高級マンションについて、「できれば毎年1棟は供給していきたい」と話す。
建築費の高騰も、こういった超高額物件の供給を後押しする。土地の取得価格を除けば、マンションの建築コストは都心でも郊外でも大きく変わらない。
1戸あたりの販売価格が数千万円の郊外の物件を大量に作れない状況下、企業としても都心部で数億、数十億円の超高額物件を作る必要がある。
家が高すぎて手に届かないと多くの人々が嘆く一方、都心では限られた富裕層のために開発され、人知れず販売される物件が増え続ける。
いびつではあるが、これは日本に限った話ではなく、世界規模で起きている現実だ。生活の基盤となるはずだった住宅が資産としての側面を強め、格差を生み出す装置となって久しい。都心の夜景を彩る高層マンションは、働いても家を買えない社会を映し出している。
文/外山尚之 写真/shutterstock

