先祖の墓前に親族が集まるお盆。近年、その席で話題にあがるようになったのが、「この墓を将来、誰が守っていくのか」という問題だ。少子高齢化や核家族化が進み、墓を継ぐ人がいない、あるいは子どもに管理の負担を残したくないと考え、「墓じまい」を検討する家庭は少なくない。
しかし、墓石の撤去や遺骨の移転には数十万、場合によっては100万円を超える費用がかかることもあり、その費用を誰が負担するかで話し合いが進まない家庭もある。墓じまいをめぐる家族の葛藤と、墓の無縁化を防ごうとする自治体の取り組みを取材した。
「墓じまいの話になると、みんな口が重くなります」
「今、親族間でまさに墓じまいの話が持ち上がっているところです」
そう明かすのは、関東地方に住む岡田さん(仮名・60代女性)だ。親族が守ってきた墓は100年以上続くが、上の世代が徐々に他界し、定期的な墓参りや清掃を続けることが難しくなってきたという。
親族の多くは県外で暮らしており、墓の近くに住む身内も限られている。そのため、岡田さんたちは、現在の墓を撤去し、管理の負担が比較的少ない樹木葬などへ遺骨を移すことを検討している。
墓じまいの話が持ち上がったのは、4年ほど前。岡田さんのきょうだいから、80代の母親に対し、「自分たちが元気なうちに墓を整理してほしい」との意見が伝えられたという。
しかし、実際に墓じまいを進めようとすると、大きな壁となったのが費用だった。
「現在の墓石を解体し、区画を更地にして返還するだけでも、50万〜100万円ほどの工事費が見込まれます。さらに、新たな樹木葬の契約にも相応の費用がかかり、総額で200万円規模の出費になる可能性もあるんです。
祖父母の代から大切にしてきたお墓なので、きょうだいで費用を分担しようと話し合ってはいますが、それだけの大金を捻出するのは容易ではありません」(岡田さん)
墓じまいに反対していなくても、費用をどのように分担するのかをめぐって、親族間には温度差がある。話し合いを始めてから4年が経つが、いまだ結論は出ていない。
「墓じまいの話になると、みんな口が重くなります。誰か一人が全額を負担できるような金額ではないですし、かといって、きょうだいで均等に出すことにも、それぞれ事情があって簡単には同意できない。最近では、その話をされるのが嫌で、お盆の集まりに来なくなった親族もいます」
一方、岡田さんの母親は、長年守ってきた墓を自分の代でなくすことに割り切れない思いを抱えている。
「お盆に親戚一同が集まるから、この話をしなければいけなくなるんだけど、気が重い。親族の数も少なくはないけれど、みな県外に出て行ってしまっているから、管理も難しくなるのでは……。ちゃんと向き合わないといけないんだけどね。けれども、これまで守ってきた大切な墓を、このまま維持しておきたいという思いもある」(岡田さんの母親)
「いずれは墓じまい」それでも決断できない
墓じまいを考えながら、具体的な行動に踏み出せずにいる人はほかにもいる。
関東地方に住む山本さん(仮名・50代男性)は、自宅から車で約1時間の場所にある先祖代々の墓を管理している。墓地に支払う維持費はそれほど大きな負担ではなく、現在も定期的に墓参りを続けている。
しかし、自分の後に墓を守る人がいなくなる可能性を考え、いずれ墓じまいをすることを考えているという。
「今すぐ困っているわけではありません。維持費もそれほど高くないので、現状のままでも当面は問題ない。ただ、自分が動けなくなった後に誰が管理するのかと考えると、そのままにはしておけないと思っています」
将来的に墓じまいが必要だと分かっていても、撤去や改葬にどれほどの費用がかかるのか分からず、石材店などに見積もりを依頼するところまでは進んでいない。
「お金もかかるでしょうし、遺骨をどこへ移すのかも決めなければならない。まだ切羽詰まっているわけではないので、どうしても先送りになってしまいます。自分の代で整理した方がいいとは思っているんですけどね」
親族間の合意形成が壁になる家庭がある一方、必要性を感じながらも「まだ先のこと」と決断を先送りする人もいる。

