
「パトレイバー」シリーズのシリーズ構成、脚本担当で、『寿司屋の後藤』著者の伊藤和典さん
【画像】想像以上にデカっ! こちら伊藤さんと「メチャ有名な社名ロゴ」です
後藤隊長がなぜ寿司屋に?
『機動警察パトレイバー』の「後藤隊長」が警察を辞め、寿司屋の店主になっていた……小説『寿司屋の後藤』(文藝春秋)は、『機動警察パトレイバー2 the Movie』から約30年後、熱海にある一風変わった寿司店が物語の舞台です。店の名はタイトルそのまま「寿司屋の後藤」、個性的な常連客が集まり、時折かつての仲間たちも顔を見せます。
後藤喜一や「南雲しのぶ」「泉野明」「篠原遊馬」たちの30年後の姿とは、そして、各々がなぜ「あのような」人生を歩むことになったのでしょうか。「パトレイバー」シリーズの脚本家であり、本作を執筆した伊藤和典さんに『寿司屋の後藤』誕生の経緯や年齢を重ねたキャラクターへの思いについて聞きました。
『寿司屋の後藤』は「街の看板」から生まれた
―― 後藤が寿司屋を始めるという発想は、どのように生まれたのでしょうか。
伊藤和典さん(以下、伊藤) ジェンコ(『機動警察パトレイバー』のIP管理を行っている会社)の会議室から、「寿し屋の後藤」という看板が見えるんですよ。六本木に実際にあるお店です。それを見ているうちに、引退した後藤が寿司屋をやっていたら面白いんじゃないか、という話になりました。
―― 最初から小説として企画されていたわけではなかったのですね。
伊藤 そのときは「面白いかもしれないね」ぐらいで終わっていました。その後、有料ファンサイトを始めることになって「あの話をやらない?」となり、実際に書くことになりました。
―― 元第二小隊の隊員たちも、最初から登場させる予定だったのでしょうか。
伊藤 最初は出すつもりがなかったんですよ。『深夜食堂』(※)的なノリでできるんじゃないかと思っていました。でも、遊馬を出したらファンからの圧がすごくて。「これはみんな出さないわけにはいかないな」となりました。
※『深夜食堂』……安倍夜郎さんによるマンガ、および、これを原作とする映像、演劇作品など。小林薫さん主演のTVドラマ及び劇場映画が広く知られる。
―― 連載版と書籍版では、エピソードの順番も違うそうですね。
伊藤 旧隊員を出さないとどうにもならないと感じたのが、第8話くらいのときでした。書籍化にあたっては、旧隊員の話がつながっていくように順番を組み替えています。
―― 新作『機動警察パトレイバー EZY』File 1公開(2026年5月)からの本作出版(2026年6月)の流れは予定されていたのでしょうか。
伊藤 最初から計画があったわけではありません。ファンサイトが閉鎖されてから書籍化までにも時間が空いていますし、そのあたりも含めてタイミングがあったのでしょうね。

表紙はマンガ『機動警察パトレイバー』の作者でもある、ゆうきまさみさんによる描き下ろし。『『機動警察パトレイバー』寿司屋の後藤』著:伊藤和典 (文藝春秋)
『(劇場版)パトレイバー2』を何とかしたかった
―― 本作のクライマックスでは、後藤と南雲の人生が再び交わります。最初からあの結末を考えていたのでしょうか。
伊藤 連載の途中で使命感に燃えちゃったんですよ。「これはちゃんとまとめなくちゃいけない」と。
―― それはなぜでしょうか。
伊藤 『(劇場版)パトレイバー2』は、やっぱりどこかしっくり来ないんですよね。だから、あれを何とかしなくてはいけないと思いました。いろいろ考えていたら、(本作での)あの道筋なら割といい感じに収まるんじゃないかと見えてきました。第14話(「水菓子 二人のヘルシンキ」)を書くためだけに連載を頑張ったようなものです。
―― 終盤では、酒に酔った「進士幹泰」が、劇場版1作目と2作目で起きた事件について、各隊員の思いを語る場面があります。あれは作品世界を補完する意図だったのでしょうか。
伊藤 補完と言うとかっこいいんですけど、はっきり言えば脚本家の言い訳です。あれだけ大騒ぎをして、怪我人がひとりもいないなんてね(笑)。
―― 事件のあと、一度離れたふたりが、長い時間を経て再会する構成には『パトレイバー2』の後始末という意味もあったのですね。
伊藤 そうですね。
キャラクターもファンも同じ時間を生きた
―― 元隊員たちは年齢を重ねていますが、描く際に意識したことはありますか。
伊藤 自分も同じくらい年を取っていますから、自分と照らし合わせて考えました。この程度には丸くなっているかな、ここはやっぱり変わらないかな、といったところです。
―― 当時中学生だったファンも、現在は40代になっています。キャラクターとファンが、ほぼ同じ時間を過ごしている作品でもあります。伊藤さん自身も、キャラクターが今もどこかで生きているように感じることはありますか。
伊藤 劇場版1と2の間にある『第二小隊日誌』というCDドラマのシナリオを読み返したとき、こいつら、確かにあのとき俺の周りにいたな、と感じたんです。キャラクターというより、実在する人間に近い感じです。
30年後を書くときも、あのときいたと思ったのだから、今もきっとどこかにいるよね、という気持ちはありました。「パトレイバー」に関しては特別ですね。他の作品のキャラクターでは、そういう感覚になったことがありません。

「パトレイバー」はメカものではない、と話す伊藤さん
