「幸せの黄色い新幹線」として親しまれてきたドクターイエロー。JR西日本は2026年6月、最後の1編成が2027年1月に検測運転を終えると発表した。引退まで残り約5カ月となった8月18日、広島県の三原駅では、同じく1月に定期運行を終える500系との並びを狙い、多くの鉄道ファンがカメラを構えた。
一方、その約6時間後の東京駅では、ドクターイエローの到着とともに、親子連れや見物客がホームを駆け回った。カメラが並ぶ三原駅と、親子連れが走り出す東京駅。引退を前に、ドクターイエローをめぐって各地のホームで広がる光景を追った。
500系との“貴重な並び”を狙い撮り鉄集結
東海道新幹線では、開業以来60年以上にわたり、歴代の検測車両が安全運行を陰で支えてきた。その役割を担い、「新幹線のお医者さん」として広く親しまれてきたのが「ドクターイエロー」だ。線路のゆがみを測定し、架線や信号設備に異常がないかを走行しながら検測している。
また、運行日や時刻が公表されない希少性から、見ると幸せになれる「幸せの黄色い新幹線」とも呼ばれ、鉄道ファンだけでなく子どもや親子連れにも高い人気を集めてきた。
かつてはJR東海とJR西日本が1編成ずつ保有していたが、JR東海の車両は2025年1月に引退。現在残っているのは、2005年に製造されたJR西日本の1編成のみで、老朽化に伴い、2027年1月に検測運転を終える予定だ。
8月18日、広島県三原市のJR三原駅には、ドクターイエローを待ち構える多くの鉄道ファン、いわゆる「撮り鉄」が集まっていた。目当ては、ホームに停車する500系の「こだま」をドクターイエローが追い抜き、2つの車両が横並びになる瞬間だ。
500系も2027年1月13日に定期列車での運転を終える予定で、引退を控えた人気車両同士を同じ画角に収められる、残り少ない機会の一つだった。
当日、三原駅を訪れていたカメラマンの男性は、混雑したホームの様子をこう振り返る。
「三原駅にはドクターイエローが通過する30分前に訪れたのですが、すでに500系が停車する側の新大阪方面上りホームと、反対側の博多方面下りホームの双方にカメラを持った鉄道ファンが集結していました。少なくとも下りホームには60人以上の方がカメラを構えていたと思います。
成人男性とみられる人が大半で、親子連れは確認できた範囲でわずか一家族だけでした。なかには三脚を立てて撮影する人や、黄色い点字ブロックの外側(線路側)で撮影する人も見受けられました」
JR西日本は、500系とドクターイエローの写真を募集する公式サイトの応募規約で、「黄色い点字ブロックの外側(線路側)での撮影」などの危険行為を一律禁止している。また、三脚や脚立などを使い、列車の安全運行やほかの利用客の通行、視界を妨げる撮影も禁止するとして、安全を最優先し、駅係員らの指示に従うよう求めている。
撮り鉄だけじゃない…親子連れも参戦してカオス状態だった東京駅の12分間
同日午後5時ごろ、終着駅である東京駅にもドクターイエローの到着を待つ人々が集まり始めていた。ただし、三原駅とは、ホームを埋める人々の顔ぶれも、手にした撮影機材も大きく異なっていた。
ホームで目立ったのは、スマートフォンを手に到着を待つ人々だ。学生同士や中年女性の二人組、一人で訪れた男性など、年齢も構成もさまざまだった。
とりわけ目立ったのは、幼い子どもを片腕で抱え、もう一方の手でスマートフォンを構える母親たちだ。子どもがドクターイエローのおもちゃを手にしていたり、車体に合わせて黄色い帽子や服を身につけていたりする親子もいた。
午後5時54分、ドクターイエローがホームへ姿を現すと、端で待ち構えていた人々が車両の進行方向へ一斉に走り出した。カメラやスマートフォンを入線する車体へ向けたまま、その横を追うようにホームを駆けていく。自撮り棒を線路側へ突き出す人や、子どもを抱えたまま人混みをかき分けて車両を追う母親の姿もあった。
その間も、同じホームでは、通常の新幹線を利用する乗客が乗り降りし、列車を待つ人もいた。ドクターイエローを追って走る見物客と、新幹線を乗り降りする利用客、その場で立ち止まって撮影する人々が入り乱れ、安全確認に立つ駅員も人波に埋もれながら、「黄色いタイルの内側まで下がってください」と声を張り上げた。
停車時間はわずか12分。「あと10分」「あと5分」「あと3分しかない」と、残り時間を告げる声がホームのいたる所で飛び交った。スマートフォンやカメラを手にした人々の流れは収まらず、少しでも良い位置から撮影しようとする人々が、出発間際まで車両沿いを埋め尽くした。
混乱のなか、午後3時ごろから子どもと一緒に新幹線を見ていたと話す母親が、目の前のドクターイエローを見ながら、「このために来たんだよね。本物、見たかったんだよね」と、声を弾ませながらわが子に語りかける場面もあった。

