京都で和菓子を制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子と文とで表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。    

 

法界寺
宝相華

 

 仏教美術によく見られる、宝相華(ほうそうげ)という文様。空想上の植物をかたどったもので、調べるうちに、文様を見学できる伏見区の法界寺のことを知った。
 住宅街にひっそりと佇む寺。門前に立った瞬間、その美しい風情に期待が高まる。阿弥陀堂にある四天柱と呼ばれる柱に、宝相華は描かれていた。鎌倉時代に極彩色で描かれたそれは既に色褪せ、うっすらとしか見て取れないが、蓮を思わせる花と円を描くように広がる蔓が確かに想像できた。
 可憐なさまを菓子にするにあたって、文様を写し取ること、口溶けの良い食感にすることを目指して、2種類の製法を組み合わせた。一つは和三盆糖の干菓子の製法。木型に生地を押し込み型から出すと、彫られた文様がくっきりと現れる。もう一つは焼き菓子の製法。小麦粉に砂糖、杏仁、油を混ぜ、低温でじっくりと焼く。素材を焼き菓子にすることで、ふんわりした食感に仕上がった。
 もはや既存の菓子にはカテゴライズできないものに仕上がったので、ニュー和三盆と名乗ることにした。出来上がったお菓子は見た目は力強いが、食すと儚く消える。

 

阿弥陀堂は国宝。 『法界寺』京都市伏見区日野西大道町19 075-571-0024 拝観9時〜17時 (10〜3月〜16時) 不定休 拝観料500円

photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2023年2月号より。

和菓子作家 杉山早陽子

1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。