自力避難やSOSを出すことが難しい「要配慮者」の支援課題

要配慮者からの細かなニーズを見極めていく

ろう者・難聴者以外の要配慮者には、どんな困難があったのか。それを教えてくれたのは、NPO法人レスキューストックヤード(外部リンク)で常務理事を務める浦野愛(うらの・あい)さんです。

社会福祉士の資格を持ちながら、被災地での支援活動に取り組む浦野さんは、能登半島地震でも複数の要配慮者に出会ってきました。そこで見えてきたものとは?

――まずはレスキューストックヤードさんの活動内容を教えてください。

浦野さん(以下、敬称略):「災害から命と暮らしを守るための人づくり、地域づくり」を理念に掲げながら、被災者支援を行っています。これまで50カ所以上の国内被災地で支援活動を続けてきましたが、その中で被災した際に自ら「助けて」とSOSを出せない人がいることが分かり、そういった人たちの元へどれだけ早くたどり着けるのかを重視しています。

そのためのアプローチ方法はさまざまです。例えば炊き出し、足湯ボランティア、お茶飲み場づくり、あるいは戸別訪問。これらの支援を通して要配慮者を見つけ出す工夫をしています。

――能登半島地震において、要配慮者の方はどれくらいいらっしゃいましたか?

浦野:まず私たちは穴水町の避難所を訪れました。社会福祉協議会が入っている建物が指定避難所になっていたため、他の避難所と比べると、福祉的ニーズの高い人たちが集中していたように思います。そこには、全く目が見えない方、手足に障害があり車いすを使っている方が4~5名ほど、それからダウン症の方や統合失調症の方、認知症の方もいらっしゃいました。

そういった要配慮者の方に向けて社会福祉協議会の皆さんが福祉避難スペースを用意してくれていたんですが、ただ用意はしたものの、その先どのように支援すればいいのか分からないと困っていました。

これは要配慮者に限ったことではありませんが、被災時にまずすべきことは、「食べる、出す、寝る」の環境を整えることです。それらをいち早くまともな状態まで持っていき、機能させること。その中で要配慮者にも気を配る必要があります。

なぜかというと、環境が変わったことで、要配慮者の状態というのはどんどん悪化していくからです。だから、介護や介助も同時並行でしていかなければいけません。ご家族が頑張ってくださるケースもありますが、単身者や高齢者世帯の場合、あるいはご家族も動けない場合は、私たちがその役割を担いました。


被災地にある活動拠点から取材に応じてくれた浦野さん

――要配慮者といっても、その背景は実に多様であることが分かります。だからこそ、一人一人の細かなニーズに合わせた支援が必要なんですね。

浦野:そうですね。また、避難所以外の場所にいるケースも考えなければいけません。在宅避難をしている人たちの中にも、要配慮者がいる可能性があるからです。でも、それをチェックする機能がどうしても薄い。今回は、75歳の高齢者がいる世帯と75歳以下で介護保険の認定を受けている世帯、そして障害者手帳を持っている世帯を対象に、町の医療チームが訪問していました。

ただ、1度目と2度目の訪問にはどうしてもタイムラグが出てしまいます。そうなると、その間にどうしても取りこぼされてしまう人が出てきます。そういった人たちを見逃さないためにも、私たちレスキューストックヤードが戸別訪問していきました。そうするとやはり、支援が必要な人が見つかるんですよ。


自宅に避難する高齢者のケアを行うレスキューストックヤードの皆さん。写真提供:NPO法人レスキューストックヤード

――どんな人が見つかったのでしょうか?

浦野:例えば、重度のアレルギーを持つお子さんを抱える世帯です。ふだんは、お子さんの食べられるものを自分たちで用意していたそうなんですが、被災によってそれが難しくなってしまった。町の物資倉庫に行っても底が尽きているし、近くのスーパーは閉じているし、通販は届かない。食べるものがないから、無理やり一般食を食べさせるんですが、それだとどうしても具合が悪くなってしまう。

結局、被害の少なかった金沢市まで4~5時間かけて出向き、食べられるものを購入するという日々を繰り返していたとおっしゃっていました。

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「SOS」を出したくても出せない人がいる

浦野:以前、地域の人から「ふだんからきれいにし過ぎているから、子どもがアレルギーに反応してしまう」「気にし過ぎなのでは?」などと言われ、深く傷ついてしまった経験をお持ちだったそうです。だから、本当に困っていても周囲にSOSが出せなかった。そのため私たちはアレルギー除去食を用意してお届けしました。

他には精神障害者の方もいて、そこにはまた別の課題があります。彼らに対しては町の支援としてもできることに限界があるんです。例えば、家の中を一緒に片付けるとか、罹災(りさい)証明書の手続きを一緒に行うとか、そういった細かな支援には行政が関与しづらい……。

では誰がそれを担うのかというと、ボランティアしかいないんです。

とはいえ、私たちの手だけでは足りません。ですから、現時点ではそういった支援をしながらも、将来的には地域の支援センターや町の制度にもつなげていけるように道筋をつくっていくことも検討しています。


レスキューストックヤードの看護チーム、災害派遣ナースによるミーティング風景。写真提供:NPO法人レスキューストックヤード

――いま伺ったケース以外にも、要配慮者からの声は上がっていますか?

浦野:たくさんあります。老老介護をしている世帯の方は、震災によって在宅支援のサービスが止まってしまい、24時間自分たちで介護をしなければいけないことの苦労を吐露していました。

避難所で生活している自閉症のお子さんの中には、人が密集している状況に過剰なストレスを感じてしまい、夜中になると起き出してウロウロする子もいました。声をかけてみると本人から「心を落ち着かせています」と返ってきました。

みんな大変なことを理解しているから、周りに迷惑をかけないように必死なんですよ。


避難所にある福祉避難スペースで、要配慮者のケアを行うレスキューストックヤードのスタッフ。写真提供:NPO法人レスキューストックヤード
 


避難生活を送る高齢者の方々と温かい食事を提供するレスキューストックヤードのスタッフ(左から2人目)。写真提供:NPO法人レスキューストックヤード

――大規模な災害が発生したとき、そこに「要配慮者」と呼ばれる人々がいて、どんなふうに困っているのか、具体的にイメージできない人は大勢いると思います。だからこそ、知ってもらいたいですよね……。

浦野:要配慮者の存在を知れば、もしかしたら自分の住む地域にもそういった人がいるかもしれないと気にかけられるようになりますよね。気づく目を鍛える、とも言えるかもしれません。実際、福祉や介護の専門職ではないふつうのボランティアさんでも、要配慮者についての知識さえあれば、被災地で彼らを見つけ出すのは難しいことではありません。

私たちは向こう1年、能登半島に常駐スタッフを置きながら活動していこうと思っています。でも、状況は刻一刻と変化していくはずです。仮設住宅から自宅に戻る人もいれば、遠くで避難していたけれど地元に戻って来るという人もいるでしょう。あるいは、失業してしまった人や健康状態が悪化している人も出てくるかもしれません。

だから、一人一人のニーズに合わせた支援を継続的に行っていく必要があると考えています。その中でも特にお手伝いしなければいけない要配慮者を特定していって、その情報を社会福祉協議会といった他団体の皆さんに共有する。そうして、その人の生活計画を一緒につくっていくことが、能登半島地震の被災地における私たちの最終目標かなと思っています。

それを支えるためにも、私たちが発信している被災地の情報(外部リンク)をシェアしていただいたり、寄付や義援金などで支援していただけたりするとありがたいですね。


レスキューストックヤードの街頭での募金活動に参加し、共に寄付を呼びかけるボランティアの皆さんとスタッフ。写真提供:NPO法人レスキューストックヤード

編集後記

要配慮者について伺う中で、山根さんも浦野さんも、その存在を「知ってほしい」と繰り返しました。存在を可視化すれば、有事の際にも気がつけるかもしれない。それこそがまさに、彼らを取り残さない社会づくりの第一歩なのでしょう。

そしてそれは、何も災害時に限定した話ではありません。私たちが穏やかに暮らす日常生活の中にも、実は困難を抱えている要配慮者がたくさんいます。ふだんから意識することで、誰もが安心して暮らせるインクルーシブな社会が実現するのではないか。そんなことに気づかされる取材でした。

撮影:十河英三郎