芸能界のトイレ博士とトイレ診断士が語る公共トイレの未来

「汚い」と目をそらさず、トイレをよく見ることが清掃の第一歩

――ちなみに、トイレをきれいに維持するという観点で、家庭でもまねできるテクニックがあれば教えてください。

佐藤:公共トイレでも家庭でも、まずは「トイレをちゃんと、よく見る」というのが清掃の基本だと思います。トイレって「汚い」「まじまじと見るものじゃない」といった感覚を持たれがちなんですが、山戸さんが言うように毎日絶対に汚れる場所ですし、1つ汚れが付くとそこから雑菌が広がってしまうような性質もある。ですから、毎日しっかり見て、汚れがあればすぐきれいにしてしまうことが維持管理のポイントです。

山戸:あとは、私たちの日常生活で出る汚れは油汚れがほとんどなのですが、トイレは唯一アルカリ性の汚れが付く場所なんです。その汚れは尿の中に含まれるカルシウム分が衛生陶器に付着する「尿石」と呼ばれるものです。ですから、定期的に酸性の洗剤を使って固着した尿石を落とすのも忘れずに行っていただければと思います。


トイレの維持管理について語る山戸さんと意見を交わす佐藤さん

佐藤:換気扇がちゃんと回っているかも確認しておきたいですね。狭い空間は雑菌やウイルスが滞留しやすいですから。あとは、温水洗浄便座に付いている脱臭用フィルターの汚れは気づきにくい場所かもしれません。

山戸:目の付けどころがさすがですね。フィルターは尿はねなどいろいろな汚れが付きやすいわりに、見えづらいところに設置されていることが多いんです。

佐藤:フィルターがホコリで目詰まりし、ときにはカビが生えてしまうこともあるんですよね。温水洗浄便座を使っている方はフィルターを定期的に確認してみてほしいですね。


トイレの維持管理について佐藤さんの目の付けどころに感心する山戸さん

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家のトイレでしないことは、公共トイレでもしない意識を

――今後、誰もが快適に使える公共トイレを増やしていくために、どういう社会的な取り組みが必要だと考えていますか?

佐藤:何度も話題に出ていますが、自治体にどう予算を取ってもらうかですよね……。予算配分を行うのは市区町村の議員ですから、公共トイレの改善に意欲を持った議員に投票したり、公共トイレをきれいにしてほしいと働きかけたり、ということになるのかな、と思います。

山戸:そういう目線で考えると、THE TOKYO TOILETの「公共トイレを観光資源にする」という考え方は斬新でしたよね。最初に聞いたときは「公共トイレで観光なんて何を言ってるんだろう」と思ったんです(笑)。でも、映画『PERFECT DAYS』の世界的ヒットも後押しして、その構想が実現しつつありますね。

佐藤:公共トイレが変わることで、地域に対してこれだけプラスの影響を与えるんだ、という実例ができましたよね。他の行政も「まねしてみようかな」と考えるでしょうし、実際に新しい公共トイレが造られる動きも起こっています。

山戸:日本国内のみならず、世界中から渋谷の公共トイレを視察に来るわけですからね。これはTHE TOKYO TOILETと渋谷区が切り拓いた、新しい可能性だと思います。

佐藤:少子高齢化でどの自治体も子育て世代をどうやって呼び込むか頭を悩ませています。公共トイレをきれいにすることで人の流入が生まれるなら、行政側も実行に移しやすくなる。そういった意味では、今後も渋谷区の公共トイレがどういうプラスの効果につながっているのか成果を数値化し、メリットを明らかにしていけるといいですよね。

――社会にいる私たち一人一人は、誰もが快適な公共トイレを使える社会の実現に向け、どんなサポートができると思いますか?

佐藤:シンプルですが、自宅のトイレを使うのと同じ感覚で公共トイレを使っていただけるといいんじゃないか、と思います。「家のトイレだとこうはしないよな」っていうことを外でもしない。

山戸:本当にそうですね。公共トイレに誰かがペットボトルを置くでしょう。すると、次々とペットボトルが置かれていくんですよ。自分が掃除するわけじゃないからいいや、という気持ちがあるのだとしたら、やはり寂しいことです。汚さない意識を持つだけでも、公共トイレの姿はきっと変わってくるのではないでしょうか。


公共トイレの未来について語る山戸さん(左)と佐藤さん (右)

編集後記

多くの人があるのが当たり前だと思っているであろう公共トイレ。しかし、みんなが快適に使えるようにと、清掃員やトイレ診断士といったたくさんの人が日々関わりながら、維持管理に努めています。

公共トイレは私たちが安心して暮らしていくためになくてはならないインフラ。一人一人がほんの少し心がけるだけで、いつでも安全で、快適に使える場所になるはずです。

今日からあなたも公共トイレの大切さやこれからの在り方について、一緒に考えてみませんか?

撮影:十河英三郎