急に気持ち悪くなる、つわりのような吐き気がする、吐き気があって食欲が湧かない。そんな経験はありませんか? 中には、吐き気とともに頭痛やめまいを伴う方もいるようです。

吐き気は、更年期に起こる症状の1つと言われており、症状の出方も人それぞれ。安静にしていれば治まることもあれば、治まったかと思って動くとまた症状が出てしまうというケースもあります。でもそのような状態では、外に出るのも不安になることはもちろん、家事も満足にできなくなりますよね。

そこで、更年期に起こる吐き気の原因・症状と対処法について、産婦人科医の天神尚子先生にお聞きしました。

監修/天神尚子先生(三鷹レディースクリニック院長)
日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、平成7年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。

更年期に吐き気が起こる主な原因とは



【1】更年期のホルモン変動による自律神経の乱れ

更年期に入ると、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの分泌量が減少します。エストロゲンは自律神経のバランスを整える働きがあるため、その減少は自律神経の乱れを引き起こします。

自律神経は、交感神経と副交感神経から成り立っており、これらが協調して胃腸の機能をコントロールしています。更年期に自律神経のバランスが崩れると、胃の活動が低下し、食事の消化吸収能力が減退します。

消化吸収能力の低下により、胃内の食べ物が滞留しがちになります。その結果、胃内圧が上昇し、胃酸が食道に逆流しやすくなるのです。この胃酸の逆流が、不快な吐き気を引き起こす主な原因となります。

更年期の吐き気は、エストロゲンの減少による自律神経の乱れが根本的な原因となります。

【2】ストレスや不安による自律神経の乱れ

更年期の女性は、過度なストレスにさらされやすい傾向にあります。この時期は、親の介護や子どもの自立など、家庭環境に大きな変化が起こることが多いのです。また、仕事面でも責任ある立場に立たされることが増え、心理的な負担が大きくなります。

加えて、更年期の女性は、人生の意義について深く考えたり、喪失感や老いを実感したりと、精神的に不安定になりやすい状態にあります。こうした心理的な要因は、更年期症状の原因の1つと考えられています。

ストレスは自律神経の働きに大きな影響を与えます。過度のストレスは、交感神経と副交感神経のバランスを乱し、自律神経の機能を低下させてしまうのです。

更年期に起こりやすい環境の変化や精神的な不安定さは、自律神経の乱れに拍車をかけ、更年期特有の症状を引き起こす要因となります。特に、自律神経の乱れは消化器系に影響を及ぼすため、吐き気などの消化器症状を誘発しやすくなるのです。

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簡単にできる自律神経の整え方



更年期が原因でホルモンバランスや自律神経が乱れていることが考えられるなら、婦人科など医療機関を受診することをおすすめします。また、日常生活の中でのちょっとした工夫で、症状を和らげることもできます。

【1】リラックス法の実践

更年期の吐き気を和らげるためには、心身のリラクゼーションが大切です。深呼吸やマインドフルネス、ヨガなどのリラックス法は、精神的なストレスを解消し、自律神経のバランスを整える効果があります。

特に、漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)は、更年期女性にとって実践しやすいリラックス法の1つです。椅子に座ったラクな姿勢で、目を閉じ、体の各部位に意識を向けながら、筋肉を意図的に緊張させたり弛緩させたりを繰り返します。手足、肩、背中、首、顔など、全身の筋肉を順番にほぐしていきましょう。

この練習を重ねることで、自分の体の緊張状態に敏感になり、意識的にリラックスできるようになります。自分の体の緊張をコントロールできる力を身に付けることは、更年期のストレス管理に大きく役立ちます。

また、就寝前のリラックスタイムを設けることも効果的です。アロマセラピーを取り入れたり、ゆったりとしたお風呂に浸かったり、軽いストレッチやヨガをおこなったり、心地よい音楽を聴いたりと、自分に合ったリラクゼーション法を見つけましょう。

更年期の吐き気は、ホルモンバランスの変化だけでなく、ストレスも大きな要因となります。心身のリラクゼーションを習慣化し、自律神経のバランスを整えることが、更年期を快適に過ごすための重要なポイントといえるでしょう。

【2】自律神経を整える栄養価の高い食事

更年期の吐き気を緩和するには、バランスの取れた食生活が欠かせません。特に、オメガ3脂肪酸を多く含む魚料理を積極的に取り入れることをおすすめします。オメガ3脂肪酸は、体の炎症を抑える働きがあり、更年期の不調を和らげる効果が期待できます。

また、ビタミンやミネラルを豊富に含む野菜と果物も、更年期女性の強い味方です。中でも、ビタミンB群、マグネシウム、カルシウムは、自律神経の機能を正常に保つために重要な栄養素です。これらの栄養素を意識的に摂取することで、自律神経のバランスを整え、更年期症状の改善につなげましょう。

さらに、規則正しい食生活リズムを心がけることも大切です。毎日決まった時間に食事をとる習慣をつけると、胃腸の働きが整い、消化吸収機能が向上します。良好な消化機能は、更年期の吐き気を防ぐ上で重要な役割を果たします。

更年期の食事療法では、栄養バランスと食事リズムの両方に気を配ることが重要です。オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラルを適切に摂取し、規則正しい食生活を送ることで、更年期特有の不調を乗り越えていきましょう。体の内側から健康をサポートする食生活は、更年期を快適に過ごすための鍵となるでしょう。

【3】エストロゲン作用のある食品やサプリメント

大豆イソフラボンは、更年期の女性ホルモンバランスを整える上で注目される成分です。その中でも特に重要なのが、「ダイゼイン」と呼ばれる物質です。ダイゼインは、腸内に存在する特定の細菌「エクオール産生菌」によって、「エクオール」という物質に変換されます。

エクオールは、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きを持つことが知られています。更年期に減少するエストロゲンの作用を補い、ホルモンバランスを整える効果が期待できるのです。

日本人の約半数がエクオールを腸内で産生できるとされています。一方、エクオール産生能力を持たない人も多くいます。そのような場合、エクオールを含むサプリメントを活用することも1つの選択肢となるでしょう。

ただし、サプリメントに頼りきるのではなく、日々の食事から大豆製品をしっかりと摂取することが大切です。豆腐、納豆、味噌など、さまざまな大豆食品をじょうずに取り入れることで、イソフラボンを効率的に体内に取り込むことができます。

更年期の吐き気や不調を和らげるには、大豆イソフラボンとエクオールの力を借りることが有効な対策の1つです。食事とサプリメントの活用を組み合わせて、女性ホルモンのバランスを整えていきましょう。