「同性カップル」の財産分与が認められず 代理人弁護士「外国での婚姻が不利をもたらす“ちぐはぐ”な判断」

5月1日、日本で同性パートナーとの関係が破綻したドイツ人女性が、事実婚(内縁)の関係にあったとして財産分与を求めた家事審判で、東京高裁は申し立てを退ける決定をした。

「ドイツ法上は内縁が成立していない」

ドイツ人女性は2011年にドイツで日本人の元パートナーと知り合い、2013年に来日して同居を開始した。2018年にドイツで婚姻した後にも日本で共同生活を続けていたが、2019年9月に関係が破綻して同居生活を解消した。

2020年8月、内縁関係の解消に基づく財産分与の審判を求めて横浜家庭裁判所に申し立てを行ったが、2022年2月に家裁は申し立てを退ける。女性は東京高裁に即時抗告を行った。

女性側は、夫婦の離婚に伴う財産分与について定めた民法768条の規定は異性間の内縁関係に類推適用されていることを指摘したうえで、夫婦と同様の共同生活を営んでいた女性とパートナーの間における内縁関係にも同様に民法768条が類推適用されるべきと主張。

高裁は、2人がまだドイツにおける法律婚を解消しておらず現在も婚姻関係にあることから、ドイツ法上は「そもそも財産分与の効果を発生させるような内縁関係が成立していない」と判断。

仮に日本法上では「民法768条が類推適用されるべき」とする女性側の見解を採用する余地があるとしても、ドイツ法上では内縁が成立していない以上、財産分与を認める理由はないとして、女性の抗告を棄却した。

婚姻することで不利になる「ちぐはぐ」な判断

女性側は、異性カップルの内縁関係解消については民法768条の類推適用が認められるが同性カップルの場合には認められないことは、「法の下の平等」を定めた憲法14条1項の理念に反する不合理な差別と主張していた。

高裁の決定では女性側の見解を「採る余地」について言及はされていたが、ドイツ法上の要件が満たされていないことに基づいて棄却。「日本法において同性カップルにも財産分与が認められるべきか否か」の判断は避けられた。

通常、片方が外国人である同性カップルが海外で婚姻をすることは、日本においてもカップルの関係や当事者を有利にする効果をもたらす。

しかし、今回、高裁は「外国法上での婚姻関係が成立している」ことを理由にして「日本法上での内縁関係の成立」を不問にした。

つまり、もし女性とパートナーがドイツで婚姻していなかったら「日本で成立していた内縁関係が解消した」ことが論点となり、財産分与が認められていた可能性があったかもしれない。

5月2日に行われた会見では、女性側代理人の小豆澤史絵弁護士が、通常なら婚姻したほうが当事者にとって有利になるのに今回は婚姻したために不利になってしまったことを指摘。「問題となる法律によって婚姻が有利にも不利にもなってしまう、ちぐはぐな判断だ」と批判した。

婚姻すべきか否かの判断が困難になる

内縁関係が認められるためには「婚姻の意思」と「夫婦同然の共同生活」が主な要件となる。通常ならば、外国で婚姻関係を成立させていたという事実は「婚姻の意思」があることを示す強い証拠となり、日本法上での内縁関係の成立を後押しすることになる。

しかし、今回は外国で婚姻関係を成立させていたことでパートナー関係が破局した後にも財産分与が認められなくなり、ドイツ人女性にとって不利な結果をもたらした。

また、仮にドイツで婚姻していなかった場合には日本法上での内縁関係が成立せず、やはり財産分与の申し立ては認められなかったかもしれない。

今回の高裁の判断について、小豆澤弁護士は、「日本人のパートナーを持つ同性愛者にとって、本国で婚姻すべきかどうかの判断を非常に難しくしてしまうものだ」と指摘。

今後については、「最高裁も今回の判断を追認するかどうか。改めて主張を尽くしたい」(同上)としている。