北海道カジノ含む “統合型リゾート施設(IR)”計画断念から再検討へ?  「誘致反対」北海道の5団体が鈴木直道知事に要請書

ギャンブルは家庭を壊し、子どもの成長にも影響を及ぼす――。

カジノを含むIR(統合型リゾート施設)をめぐり、北海道でひそかな動きがある。北海道では2019年にIRの誘致を一度断念しているが、23年12月には北海道議会の自民党会派が誘致の再検討を行う姿勢を表明し、勉強会も立ち上げた。これに対し、北海道臨床心理士会など5団体は反対する要請書を提出している。

推進派と反対派がそれぞれ知事に働きかけ

「豊かな自然に囲まれた候補地は、希少な動植物が生息する可能性が高く、限られた期間で環境への適切な配慮を行うことは不可能であると判断した」

2019年11月29日、北海道議会第4回定例会本会議。北海道の鈴木直道知事は、自民党議員からの質問への答弁で、「来るべき時には挑戦できるよう、準備を進めていく」としたうえで、環境影響評価を行えないと判断。IRの招致を一度見送ると表明した。IRの候補地だった苫小牧市の岩倉博文市長は「投資の意向を示している事業者にとっては、このチャンスを逃すともう投資しないのでは」などと落胆していた。そのほかの推進派からも「残念だ」と落胆する声があった一方、希少動物の巣があることなどを理由として招致に反対していた反対派からは、知事の姿勢を評価する声が上がった。

ただ推進派はあきらめていない。23年12月、北海道議会の最大会派「自民党・道民会議」の一部議員らが、北海道へのIRの誘致に関する勉強会を開いた。代表を務める伊藤条一道議は、千歳市に半導体製造を行うラピダス社が進出していることなどを挙げ、時間をかけながら誘致を進める考えを示すなどの動きがある。

それに呼応するかのように、反対派はまた動く。北海道臨床心理士会、北海道子どもの虐待防止協会など45団体と賛同する札幌弁護士会は24年4月10日、鈴木知事あての要請書を提出している。

大阪府と市の整備計画は認定、長崎は事実上断念

国内でIRの誘致を表明、または検討している自治体は前述した北海道と東京都、千葉市、名古屋市、大阪府・大阪市、横浜市、和歌山県、長崎県と8つある。このうち千葉市は20年3月に「国から示されているスケジュールでの誘致はできない」として断念。横浜市は「中止」を表明し、名古屋市と和歌山県もそれぞれ「計画案を出さずに見送り」「計画案を否決した」として22年に断念している。

東京都は23年4月時点で「総合的に検討する」と推進でも断念でもない姿勢の一方、長崎県は同年12月に県が出した計画案を「国が認定しない」として行政不服審査を請求すると思われていたが、県の幹部は今年3月に請求を行わないことを明らかにし、IRの誘致を事実上断念することになった。

これで残り1つは大阪府・市のみだが、大阪では25年に「大阪・関西万博」を開くことが決まっている。府によれば大阪IRは30年秋ごろの開業を目指しており、万博と同時進行で整備を進めることとなる。大阪府・市の整備計画を認定した際、IR誘致に関する推進本部長を務めた岸田文雄首相は、「観光立国を推進する上で重要な取組だ」と評価している。

IRのメリットとデメリット、改めて考えてみては

府が示したIR立地による開業後の近畿圏の経済波及効果は年間で約1兆1400億円、建設時に約11.6万人、運営時には年間で約9.3万人の雇用者を生むと試算されている。IR招致によるメリットのひとつとして、露出の増加による観光地としてのさらなる広告効果を期待する声もある。

ただ、前述の要請のように、IR招致によってギャンブル依存症患者が増えるおそれがあるとの指摘もある。最近では、米大リーグ・ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平容疑者が、違法賭博を行うなどして大谷選手から1600万ドル(約24億5000万円)をだまし取ったとして訴追されたばかり。IRのメリットとデメリットを総合的に判断し、どのように先を見据えればいいのか。改めて考える余地はあるだろう 。