MW Interview リチャード・ヘミングMW

リチャード・ヘミングMW
イギリス出身のワイン評論家で、2009年にMWの称号を得たリチャード・ヘミング氏にも話を伺った。英国のワイン専門小売チェーン 「マジェスティック・ワイン」でキャリアをスタートし、現在はシンガポールを拠点に『 JancisRobinson.com 』の主要寄稿者として執筆。これまでに約1000本の記事と3万件のテイスティングコメントを執筆しているほか、各国のワインコンクールで審査員を務めるなど国際的に活動してる人物だ。
ヘミングMWはワイン評論を書く際「専門用語を避け、消費者に伝わりやすい表現を重視している」という。テイスティングコメントも「技術的な分析よりも、香りや味わいを分かりやすく伝えることを意識している」と語る。
今回のテイスティングで特に印象に残ったワインとして挙げたのが、マスカット・ベーリーAだ。
「多くの人が指摘するように、ストロベリーの香りがはっきりと感じられ、日本の赤ワインとして個性が分かりやすいと思いました」
視察では、日本ワインの多様なスタイルにもあらためて触れることができたと話す。
「これまで試飲してきた日本ワインは、繊細でエレガントなスタイルが中心でしたが、今回のツアーでは熟成ワインに加え、スパークリングや樽熟成の赤、さらに甘口ワインなど、さまざまなスタイルを試飲することができました。特に甘口ワインは、若い世代の消費者にとって新しい可能性を持つスタイルではないかと思います」
一方で、日本ワイン産業にはマーケティングや流通の面で課題も残っていると指摘。
「特に若い世代にワインの魅力を伝えることは簡単ではありません。SNSや動画、音声などを通じてまず興味を持ってもらい、その後ウェブサイトなどでさらに学んでもらう。そうした流れを作ることが重要だと思います」
今回の視察は、日本ワインの多様なスタイルと可能性をあらためて確認する機会になったと笑顔で話した。
フィードバックセッション
最後に行われたのは、MWたちによるフィードバックセッションだ。冒頭、ツアーの代表を務めた英国在住のナターシャ・ヒューズMWが趣旨を説明した。

ナターシャ・ヒューズMW
「今回の訪問を通じて、日本という国、人々、そしてワイン産地について非常に深い理解を得ることができました。そこで今度は、私たちの側から何かお返しをする機会にしたいと思います。MWツアーの最後には、メンバーが意見を共有する"ミニ・グループコンサルテーション"を行うのが恒例です。今回訪問した生産者の中には、オンラインでこのセッションに参加されている人もいるとのこと。私たちの意見が少しでも参考になればと思います」
まず議論されたのは、日本ワインのスタイルの多様性についてだった。英国のワインジャーナリスト、リズ・モーコムMWは甲州を例に挙げてこう指摘した。
「今回のテイスティングでは、甲州一つを取ってみてもさまざまなスタイルがありました。これは大きな魅力です。ただ一方で、ボトルを手に取ったときにどのような味わいなのか消費者が予想しにくい場合もあります。多様性は日本ワインの強みですが、同時に分かりやすく伝える工夫も必要だと思います」
英国のクリスティン・マルシリオMWは、比較的低いアルコール度数に注目した。
「世界市場では低アルコールワインへの関心が高まっていますが、日本ではそれが自然に実現されています。これは国際市場に向けて強く打ち出せるポイントです。一方で、課題は気候です。特に生育期の湿度は困難な条件ですが、多くの生産者がさまざまな方法でその問題に取り組んでいることを知りました」
日本料理との相性も、日本ワインの可能性として挙げられた。インド初のMW、ソナル・ホランドMWはこう語る。
「日本料理は世界中で人気があり、プレミアムな食文化として認識されています。日本料理とともに日本ワインを紹介することは自然なこと。しかし実際には、日本料理店で日本ワインが十分に提供されているとは言えません。世界中の日本料理店で、ワインリストの一定割合を日本ワインにすることができれば、大きな推進力になるでしょう」
固有品種の存在も、重要な強みとして指摘された。英国在住のブラジル出身MW、レジーン・リーMWは甲州とマスカット・ベーリーAについてこう話した。
「他国では造れない品種を持っていることは、マーケティングにおいて大きな武器になります。一方で輸出市場では安定供給が課題になる。生産量が限られているため、物流や流通の仕組みを考えることも重要です」
英国のスーパーマーケットでワインバイヤーとして活動するエリザベス・ケリーMWは、英国市場での認知の課題にも触れた。
「英国では日本文化への関心は非常に高く、日本料理も人気があります。しかし日本酒を除いて、日本の飲み物の認知はそれほど高くありません。日本ワインについては、日本でワインが造られていること自体を知らない人も多いのです。まずはその認知を広げることが重要です」
一方、日本文化の発信力にも期待が寄せられた。
シンガポール出身のジット・ハン "ジャッキー"・アンMWは、マンガ『神の雫』を例に挙げながらこう語った。
「日本は文化の輸出が非常に上手な国です。日本のワイナリーには魅力的なストーリーがたくさんあります。それをマンガやテレビなど、日本らしい方法で発信していくことができれば大きな力になるでしょう」
北欧市場との相性については、ノルウェーのワインコンサルタント、トーネ・ヴェセト・フルホルメンMWが言及した。
「ノルウェーの消費者は新しい産地にとても興味があります。生産量が少ないことはむしろ希少性として魅力になります。甲州やマスカット・ベーリーAの軽やかなスタイルは北欧料理ともよく合うと思いますよ」
輸出戦略については、日本酒市場との連携にも可能性があるという意見が出た。米国のワイン評論家、ティム・マーソンMWはこう指摘する。
「日本酒はすでに海外市場で一定の存在感を築いています。そうした市場との連携は、日本ワインにとっても新しいチャンスになるかもしれません」
セッションの終盤、米国在住のフランス出身MW、ジャン=ミシェル・ヴァレットMWが日本の生産者に向けて次のような言葉を送った。
「皆さんは、おそらく世界で最も難しい環境の一つでブドウ栽培を行っています。それは強さと忍耐力の証です。今回ここに来た30人のMWは、日本ワインのアンバサダーになるでしょう」
最後に、日本人として初めてMW資格を取得した大橋健一MWが、今回の訪問の意義について語った。
「この活動を通して、日本ワインを海外で紹介したいと思ってくれる人をどれだけ増やせるかが重要です。そのためには、自分たちのワイナリーの個性や魅力を、より明確に伝えていくことが必要だと思います」
ナターシャ・ヒューズMWからは、ツアーを実現させた関係者への感謝も述べられた。
「これは日本への最初のMWツアーであり、今後も続いていくことを願っています」

欧州、アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、シンガポール、インドから合計30人のMWが参加した今回のツアー。訪問した「マンズワイン」で、代表取締役社長 島崎氏(前列左から3人目)と和やかに記念撮影
山梨を中心とする日本ワインの現在地を国際的な視点から見つめ直すこの場は、日本ワインの個性と可能性にあらためて光を当てる時間となった。今回の訪問は、日本ワインが世界へと広がっていく未来に向けた、確かな一歩となりそうだ。
取材協力:山梨県産業政策部産業振興課
text by Yukari EBATA
photographs by Hiroshi INOMATA

