ブッシュファイヤーを越えて。黒焦げの幹から新芽が吹き出す「不屈の生命力」

オーストラリアで暮らす中で、最も身近で、かつ深刻な自然災害といえば「ブッシュファイヤー(森林火災)」です。特に2019年から2020年にかけて発生した大規模火災「ブラックサマー」は、想像を絶する爪痕を残しました。
その総焼失面積は2,400万ヘクタール以上。これは日本の国土面積の約6割に相当する規模です。当時、森林を焼き尽くした煙はシドニー市内までも覆い尽くし、我が家のベランダにも灰が降り注ぎました。あまりにも多くの命が失われた、悲しく、そして恐ろしい記憶として深く刻まれています。

炭のように真っ黒に焼き尽くされたユーカリの幹。その無惨な姿から、まるで魔法のように鮮やかな緑の新芽が直接吹き出していました。これは厚い樹皮の下で守られていた「潜伏芽」という予備の芽が、火災の熱を合図に目を覚ました証です。

さらに足元に目を向けると、同じように黒焦げになった地面から、ゼンマイのようなシダの新芽が力強く頭をのぞかせていました。地中深くにある根茎が火災を生き延び、どの植物よりも早く、新しい命の絨毯を広げようとしていたのです。
この「黒と緑」の鮮烈なコントラストは、自然の驚異であると同時に、どんな困難からも立ち上がる不屈の生命力を象徴しているかのようでした。厳しい環境を逆手に取り、火さえも再生のエネルギーに変えてしまうオーストラリアの植物たち。その圧倒的な強さに、今でも背筋が伸びるような思いがします。
シドニー王立植物園。オペラハウスを望む、世界で最も美しい植物の拠点

シドニーの象徴といえば、真っ先に思い浮かぶのはあのオペラハウスですよね。そのすぐ隣に、驚くほど美しい「シドニー王立植物園」が広がっています。
都会の喧騒を忘れるような静寂に包まれながら、ふと目を向ければ、オペラハウスの白い曲線とハーバーブリッジが青い海に映える絶景——。この特別な場所には、なんと8,000種を超える植物たちが、約2万7,000株も瑞々しく息づいています。

ビジネス街のすぐ隣に、約30ヘクタールもの広大な緑が守られてきたのには理由があります。1788年、初代総督アーサー・フィリップがこの地を政府農地として開拓し、「ファーム・コーブ(Farm Cove)」と名付けたのがその始まり。1816年には植物研究の拠点として整備されました。かつて港を通じて世界中の植物が運び込まれたこの場所は、じつは「研究」と「帝国のネットワーク」を支える重要な拠点でもあったのです。

近代的な発展を遂げた今でも、この歴史あるガーデンは入園無料で開放され、年間400万人以上の人々に愛されています。大都会の真ん中でオーストラリアの豊かな自然を慈しみ、共存する。その懐の深さに、移住したばかりの私がどれほど驚き、感動したかは言うまでもありません。
