それだけではなく、睡眠導入剤を飲んで寝ているため、毎朝気分がいい。もう、歯を磨くときに嘔吐のような嗚咽をしなくていい。
「シラフになったので、これからはもっと雑誌を売るためにがんばろう」
そう思っていたが、ある日、編集部一同が社長に呼び出された。
「隔月刊誌から季刊誌になります」

◆雑誌を売るため、試行錯誤するも…
血の気が引いた。年4回の雑誌だと、いくら下準備をしてクオリティを上げようとも、原稿や企画の本数は、これまでと比べて相対的に減ってしまう。筆者の経験値は、ほかの出版社やウェブメディアで働いている同期たちに、さらに引き離されてしまう。そうならないように、都内の書店に足を運んで挨拶し、販促プロモーションなどについて説明してきたが、それも水の泡……。そう嘆きたいところだが、長年、大人たちがさまざまな施策を試した末に、とうとう限界が来たのだろう。
SNSも積極的に活用した。正直、ウェブメディアでもなければ、雑誌のSNSアカウントでつぶやくことはほとんどない。しかし、定期的に何かを発信しなければ、フォロワーは減っていくし、プレゼンスもなくなる。
そのため、毎日のように時事ネタに合わせて過去記事を引っ張り出して紹介した。有料会員サイトだったため、そこへの流入も必要だったのだが……。
販促イベントも始めた。隔月刊誌にもかかわらず、表紙を飾ったグラビアアイドルのお渡し会を開催。イベント前のメディア取材でも司会を務めた。
当時、酒はやめたとはいえ、筆者は球体のように膨らんだ体型で、髪の毛も伸びていたため、スポーツ新聞の記者たちは「この会社の編集者はヤバいんだな」と思ったはずだ。
なんなら、過去で一番売れた号もあった。それでも、売れ行きはなんとか「安定」する程度で、増えることはなかった。
◆格差に愕然とし、転職サイトに登録
「どうやって雑誌を売ればいいんだ……」そう悩みながら、夜道をスマホを見ながら家に帰っていると、マンガ『かぐや様は告らせたい』(集英社)の最終巻PVが目に飛び込んできた。
本作は、エリートの集う秀知院学園生徒会で出会った会長・白銀御行と副会長・四宮かぐやの恋愛頭脳戦を描いた作品だ。
アニメにもなった人気マンガなのだが、その最終巻の5分程度のプロモーション動画が衝撃的だった。
本作は「学園モノ」なのだが、そのPVでは実在する校舎をロケ地に、登場人物たちの学校生活を彷彿とさせる景色と、実際のマンガのコマを使用したビジュアルを組み合わせ、マイクロドローンを活用して撮影した映像だった。
筆者は、そのクオリティやお金の使い方に愕然とした。
「こっちにはSNSしかないのに……」
ショックで、そのまま転職サイトに登録してしまった。
「もう、雑誌の売れ行きや休刊の恐怖に悩まされないように、大手出版社に入ろう」

