◆媒体のカラーに合う企画をなかなか出せず
もちろん、その分、仕事で求められる質は否応なく引き上げられる。まがりなりにも8年近く編集者として活動してきたので、叩き上げとして「使える」はずだ。ただ、自分がこれまで気にも留めなかった点を指摘される。同じ「雑誌」を作っていても、編集部によって作業工程は異なる。「見出し」というか「タイトル」というか、タレントを撮影した写真は事務所にすべて見せるのか、それとも決定カットだけを見せるのか。現場で編集者は下手に出るのか、それとも場を掌握する立場として振る舞うのか……。会社や編集部によってルールやしきたりは違う。そのフォーマットに慣れるのも仕事のひとつだった。
また、以前の出版社はサブカルチャーというか、限られた読者に向けて情報を発信していたが、大手出版社の場合は「マス」向けに作らなければならない。そのさじ加減や感覚は、長年サブカルチャーの畑にいたため、なかなか掴むことができなかった。
企画会議では「今こそ陰謀論の祖・太田龍を語ろう!」や「参政党と日本保守党のトンデモ度を徹底比較!」などと、以前の出版社のノリでバンバン企画を提案していたら、後日、上司に呼び出されて「ああいうのは控えたほうがいいよ」と諭された。筆者はここにいてはいけない存在なのだ。
◆顔が土壁のような色の社員に戦慄
これまでのように企画が通らずに卑屈になることはなかったが、「どうやったら一般的な感覚を掴めるのだろうか」と悩むようになった。しかし、酒に逃げることはなかった。というのも、睡眠導入剤のおかげで生活リズムが安定しているからだ。なんだったら、毎日11時出社である。
かつて溺れるほどアルコールを摂取し、気絶するように眠っていた頃よりも、ずいぶんと睡眠の質は良くなり、夢を見るようになった。アルコール依存症だった頃は、失神していたようなものなので、ノンレム睡眠もレム睡眠もへったくれもなく、夢を見ることもなかったのだ。
また、自己紹介のように「γ-GTPの値は『2410』」と言っていたところ、この会社にも重度のアルコール依存症の社員がいることを知った。その人は、アルコール依存症の治療が受けられる病院から逃走したことがあるらしい。上には上がいるものだ。
一度、その社員と思われる人物と社内ですれ違ったが、顔が土壁のような色になっていた。さすがに恐れ慄き、筆者もアルコールへの興味はなくなってしまった。

