◆SNSには誤情報が蔓延している
ーー『よき法律家は悪しき隣人』のストーリーは、誰もが身近に感じるようなトレンディなものが大半を締めていますよね。那珂川:ゲーム制作は年単位のプロジェクトなので、話題性のある事象を入れるのが難しいんですよね。一方で、トレンドを柔軟に取り込み、読む人を飽きさせない展開ができるのは週刊連載の強みです。
世の中の関心が高いタイミングで話題を提供できるので、読者からの反響も毎回新鮮なものになります。
ーー流行りのテーマに関しては、どのようにしてキャッチしていますか?
那珂川:周囲で起きた実際のトラブルは、まさに身近な問題として昇華できます。裁判を傍聴し、進行中の事件の争点を把握するのも手段の1つです。
最もトレンドのチェックに役立つのは、やはりSNSですね。とくに、誤った情報が広く拡散されていく様子を見ると、正しい知識を伝えられるようなストーリーを描くヒントになります。
ーーSNSで話題になった件は、たとえばどのようなテーマがありましたか?
那珂川:“事故物件”を題材にした回があります。世間で独り歩きしている印象が強いのが「一度誰かが住めば、事故があった事実は告知しなくてよい」という誤った認識です。しかし実際には、事故発生から3年間は告知義務があると、少し前に国土交通省によりガイドラインが定められました。
また、自然死のような事件性がないものについては、告知義務が発生しないケースがほとんどです。高齢者が自然死しても事故物件とされたら、高齢者と賃貸契約する事業者が減ってしまうからですね。でも昔からの間違った知識が浸透すると、現場の声を聞いて作ったガイドラインが無意味になりかねません。
日々ネガティブなニュースが散見される世の中ですが、私が覚えている昔に比べたら少しずつ生きやすくなっている側面もあります。正しい法律知識をエンタメ的に届けられたらいいなと思っています。
◆「主人公を2人」にしたのはなぜ?
ーー正直な弁護士の比嘉亜希と、元詐欺師でアウトローな弁護士である八木渉のW主人公にした理由をお聞きしたいです。那珂川:裁判や悪事に対しては、2つの感情が存在すると感じています。1つは、法律の裏を突いてでも冷徹に勝ちたいという思い。過去に仲間と国にはめられた八木渉はそのような人物です。でも、もう1人の主人公比嘉亜希は、暖かく正直者であった弁護士の父親の下で育ち、人と法治を信頼して全てを詳らかにして世に問うて裁判に勝つべきなんじゃないかと思っています。
当初は、八木渉のみを主人公にするイメージでした。しかし、真面目に考えると権力も人間も信用できない社会の中で、裁判の二面性を立体的に描くためには、被害者の痛みに正面から向き合う比嘉亜希が必要だなと思いました。

