◆■「前向きな早期退職」のなかにある、複雑な本音
興味深いデータもあります。マイナビが2026年2月に発表した『ミドルシニアの希望退職に関する意識調査』によれば、2025年に転職した40〜50代の正社員のうち、48.2%が「希望退職は自分にとってメリットの方が多いと思う」と回答しました。約半数が、希望退職を必ずしも“追い出されるネガティブな選択”とは受け止めていないことがうかがえます。
同じ調査では、希望退職を前向きに捉えている層のうち、キャリアの方向性が明確だと答えた人の割合が58.2%。前向きに捉えていない層(38.8%)を19.5ポイント上回りました。割増退職金という目先の数字だけで決断するか、その先の道筋まで描いた上で踏み出すかで、見える景色はずいぶん違ってくるのは確かなようです。
◆■年収半減のリアル、そして物価高という新たな壁
一方で、宮脇さんが体験した「年収半減」「商習慣の違い」「大企業の囲いを失う心細さ」は、現在もなお多くの人が直面する現実です。大企業出身の希望退職者の再就職先では、年収が300万円台にまで落ち込むケースも珍しくないと指摘されています。「ゼネラリスト偏重」のキャリアでは50代の転職が想像以上に難しく、年収を大幅に下げてもなお決まらない――そんな声も少なくないようです。さらに追い打ちをかけるのが、物価高の問題。厚生労働省『毎月勤労統計調査』によれば、2025年度の実質賃金は前年度比0.5%減と4年連続のマイナス。退職金4000万円――5年前は“勝ち組確定”のような響きだったこの金額も、現在の物価感覚で受け止めると、また違った重みに感じる方もいるのではないでしょうか。
しかも、退職金は受け取った瞬間に使い切るお金ではなく、これから先の10年、20年と少しずつ取り崩していく“未来のための資金”。仮に年2%の物価上昇が続けば、10年後の4000万円の購買力はおよそ3280万円相当、20年後には約2690万円相当、つまり今の約7割ほどの価値にまで目減りする計算になります(複利で単純試算)。当時は「これだけあれば、老後も安心」と感じられた金額が、実際に使うころには、ずいぶん心もとなく見えてくる――。そんな“時間差で効いてくる物価高”の怖さも、いまの早期退職を考える上では、無視できない要素なのかもしれません。

