
中小企業の経営において、「右腕」と呼ばれる創業メンバーや幹部社員に全幅の信頼を寄せている経営者は少なくありません。しかし、その長年にわたって培われた強固な「信頼関係」こそが、ときに会社そのものを根底から揺るがすことになる恐れも……。50代の経営者の事例をもとに、社内で不正が発覚した際に会社が踏むべき「適正な懲戒手順」と対策について、社会保険労務士の内海正人氏が解説します。
「あいつに任せれば安心」52歳社長が10年以上苦楽を共にした“最強の右腕”
15年前から、都内で産業用機械のメンテナンス業を営む川崎社長(仮名・52歳)。社長が会社を立ち上げた当時から、文字どおり寝食を共にして支え合ってきたのが、4歳年下の土田部長(仮名・48歳)でした。
土田部長は現場経験が豊富で人望も厚く、現場のシフト管理やクレーム対応、若手の育成はすべて彼が仕切っていました。
川崎社長は「現場のことはすべて土田に任せておけば安心だ」と、部長が毎月提出する経費の領収書や出張申請書についても、中身をほとんど確認せずに決裁印を押し続けていました。
「社長、大変言いにくいのですが…」経理担当者が感じた“異変”
ある日、川崎社長は経理担当から相談を受けました。土田部長が提出した「地方出張の宿泊費・交通費」の精算書のなかに、いくつか不審な点を見つけたという内容でした。
「社長、大変言いにくいのですが……。土田部長の経費精算、ここ数ヵ月分だけでも明らかに不自然な点が多いです。これ、本当に会社の経費で落として大丈夫なんでしょうか?」
・出張報告書に記載された日程と、新幹線の領収書の日付が微妙にズレている
・「取引先との懇親会・接待」として計上された高級旅館の領収書に、「大人2名、子ども2名」という内訳が記載されている
・土田部長が「現地調査」として経費を申請している日に、社内の共有カレンダーでは「休み(私用)」となっている
